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「はぁ、はぁ、はぁ……」
さんざん暴れ回ったがついに信長の息が切れる。
幸い負傷した者はいなかったが、皆逃げ出してしまったので、残ったのは年長者の数人だった。
「……勝家、いたのか」
「はっ」
「おぬしが残ってくれるとは心強いな」
そこにはクマのような大柄なヒゲ親父がいる。
信長より10くらい上で、合戦経験や技術が非常に豊かであり、織田家中一の武人とされている。
「いえ、本来ならばこの勝家、戦に参加しておらぬはずですが、ドラマやゲームでは必ず筆頭家老として登場しておりますゆえ、参上してみることにいたした」
「そういえばそうだ! 貴様、弟・信勝の反乱に加担し、俺を殺そうとしたではないか! よく顔を出せたものだな!」
「あれはまさか殿が勝たれるとは思わなかったゆえ。おっと、なんでもございませぬ」
「こやつ……」
この場で切ってしまう手もあったが、戦の前に歴戦の武人を切るわけにはいかなかった。
「拙者に問題があるようであれば、こちらの林殿も同じにござる」
勝家が言うのは林秀貞のことである。
信長の家臣団でもっとも年上であり、信長の20以上、上である。
「秀貞! お前も信勝を担いだ張本人ではないか!」
「最終的に信長様のほうが主君に相応しいと思ったまでにございます。それともよろしいのですかな。我々が抜けても」
「むむむむむむ……。ただでさえ人不足だ、過去のことはしっかり水に流すとしよう……」
「それがよろしいかと」
秀貞と勝家は不敵に笑う。
信長は弟・信勝のクーデターに協力した秀貞、勝家を許した。
信勝自体は再び反乱を起こそうとしたので、殺すしかなかった。案外信長は優しいのである。
若衆が去り、その場に残ったのは秀隆、恒興と合わせて四人のみ。
「さあ、いかがなさいますか? どっちにしても負ける可能性は高うございます。なので、殿の好きなほうが選ばれては?」
秀隆が言う。
「嫌なことを言うな。事実ではあるが……」
信長はうつむいて考え始める。
そして、突然、顔を上げて言う。
「解散! 明日決める」
「なっ!?」
「これ以上、残業代やら労災やらで、文句を言われてはたまらん。今日は終わりだ」
そう言うと信長は立ち上がって、自室へ戻ってしまう。
「なんということだ……」
主君の責任放棄に秀隆が震える。
「秀隆、おやめください!」
「止めるな、恒興! やらぬわけにいくか!」
「それだけは! いくら秀隆殿でも荷が重うございます!」
秀隆は深呼吸して言う。
「これで尾張も終わりか……」
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