神頼み

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神頼み

「殿、どちらへ?」 「秀隆か」  空が白み始めてきた時間、信長はひとり馬に乗り、どこかへ出かけようとしていた。 「トイレはそちらではありませぬぞ?」 「分かっておるわ! 馬で厠に行く者がおるか!」 「いえ、ジョークにございます。殿ならば、早朝に一人お発ちになると思っておりました。どちらへ?」 「熱田神宮へ」 「神頼みですか」 「悪いか? それ以外に方法が思いつかん」 「いいえ。殿とて人の子。神に頼るしかない場合もございます。若衆には笑われましょうが」  信長はふっと笑って馬を進める。  秀隆はその後ろをついてくる。 「走るのか?」 「熱田まで20キロぐらいでしょう。戦の前のよい運動になりますな。それにゆっくり歩いても数時間でつきます。そのころには、ねぼすけの若衆も出社してきましょう」 「違いない」  そう言うと一気に馬を駆けさせる。  戦国時代の馬はサラブレッドのように速くない。  トップスピードでは半分の時速数十キロしか出なかった。  移動を目的とした実用敵な速度は、人間の駆け足と大して変わらないと言われている。  信長は徒歩の秀隆を伴い、一番に熱田神宮に到着する。  いや、そのつもりだったが……。
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