神頼み

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「いやはや、殿は社長出勤ですなあ!」 「利家!? 清洲に見えぬと思っておったが、どこにいた!?」  そこには信長の小姓・前田利家がいた。  信長の五つ下で、上司という部下という関係ではあるが、隔てなく接するヤンキー仲間である。 「おっと。俺がお気に入りの茶坊主を斬っちまったったのをお忘れか?」 「あーー!! そうだった! てめえ、勝手に斬りやがって!」  茶坊主とはお茶を出す接待係である。 「あいつ、まつがくれた笄(こうがい)を盗みやがったんだ!」  まつとは利家の妻である。利家の8つ下で、まだ満12歳だが前年に長女を産んでいる。 「殿が許そうが! まつが許そうが! あんな不届き者をのさばさておいたら男が廃る! 全国の男に代わって成敗してやったまでよ!」 「そうだ! わけ分からんこと言って反省しないから、追放してやったんだ!」 「追放されたぐらいで、殿との絆を捨てるようじゃ男が廃る! 全国の男に代わって殿の危機と聞いて駆けつけたわけよ」 「それは全国の男が来てくれたほうが嬉しいが。……じゃなくて、どうやって先回りした? 俺は熱田にいくとは言ってないぞ」 「殿とは長い付き合いだ。きっと神頼みに来ると思って三日前から待ってたんだ」 「そんな前かよ!」  早朝の熱田神宮に信長の叫び声が響く。
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