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いざ出陣
信長は将兵を移動させ、善照寺砦に入った。
善照寺砦には、信長の信頼する佐久間信盛が守っていた。
「殿、お待ちしておりました!」
「我らは今川本陣に奇襲をしかける。お前はここで陽動を行え」
「はっ! 敵を引きつけて死ねということですな! 喜んでお引き受けいたす!」
信盛は実直な男であった。
「おい……。そういうことは分かっていても口にするな……」
主君であれど、戦って死ねとは命じにくいものである。
小勢で大軍を引きつける役目を担えば、死ぬ確率は当然高い。
無論、今回の場合、奇襲をしかける信長たちも同様だった。
「はっ、もう申しませぬ! 二度と口にいたしませぬ!」
「……はあ。別に死ねとは思っておらぬ。少しの間、敵を引きつけてくれればよいのだ。危うくなったらすぐに引け!」
「はっ、すぐに引きます!」
信盛がはきはき答えるので、信長は不安になってくる。
「一応、確認しておくが……今すぐ逃げろと言ってるわけではないぞ。敵と直接やり合わない距離を維持するのだ」
「はっ、かしこまりました! 引いて引いて引きまくり、戦後は『退き佐久間』の名をほしいままにいたしましょう!」
「あ、ああ……。頼むから死ぬなよ……。あとちゃんと敵を引きつけてくれ……」
「はっ! この信盛、たとえ命を落とすことになろうと死にませぬ!」
「お、おう……」
不安が解消されることはなかったが、信盛は必ずやり遂げる男だ。
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