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ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
兜に当たり、小気味いい音を立てる。
そして、次の瞬間には豪雨となり、鎧兜が激しい合奏を始める。
「やはり降ったか。それにしてもすごい雨だな。足下がぬかるみ、歩くのにも難儀しようぞ。……兵が帰りたいと喚き出さねばよいが」
「ははっ。遅延証明書があれば遅刻が許されるのか、確認してきそうですな!」
「戦を前にやめてくれ……」
「しかし奇襲日和にございます。これで敵に気づかれることなく、本陣に接近できますぞ」
秀隆が言う。
「ああ、天は我に味方した! 馬鹿にされながらも、神頼みしたかいがあったものよ」
そこに恒興が走り寄ってくる。
「殿、義元の居場所が分かりましたぞ! 豪雨のため進軍をやめ、桶狭間で休息中とのこと」
「恒興、よくやった! 全軍、桶狭間へ向かうぞ!」
信長は馬を返す。
「殿、お待ちくだされ!」
「なんだ?」
「雨がひどいので、兵がもう帰りたいと申しております!」
アホな報告に、信長は頭がぐらっとする。兜の重みでそのまま落馬してしまいそうだ。
続いて諸将が申告する。
「向こうでは、遅延証明書がどうたらと言っております!」
「拙者、田んぼが心配だから見にいきまする!」
「不要不急の外出は控えるべきでは!?」
「こんな豪雨の中、仕事しろとか、ひでえ殿様だぜ!」
「台風レポーターの気持ちが分かるよな」
もちろん信長はこう言うしかない。
「帰りたいなら帰れ!」
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