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終わらない会議
「殿、いかがいたしましょう」
河尻秀隆が神妙な面持ちで言う。
その台詞は今日何度言ったか分からなかった。
「状況を教えろ」
織田信長もまた同じ台詞を繰り返すので、秀隆は仕方なく同じ報告をする。
「はっ。今川義元が上洛を企図し、三万の大軍で挙兵しました。対して我らはせいぜい五千かと」
「ふむ……」
信長は考え込むように、あごに手を当てる。
しかし、これはポーズだけであまり考えていない。
尾張の領主である織田信長は今、窮地に立たされていた。
今川の大軍にどう立ち向かうべきか、織田家臣は清洲城に集まり、対策を検討していた。だが一向に決まらず、夜が更けようとしている。
秀隆は同じことばかり繰り返しては芸がないと思い、情報を付け足すことにした。
「今川義元は海道一の弓取りを言われております。しかし、取り立てて弓がうまいわけではございませぬ」
「左様なこと知っておるわ!」
信長が上座から秀隆を一喝する。
「義元は駿河、遠江すなわち、東海道を押さえた大大名。そして、弓取りは武士の意味よ!」
「ははっ、ジョークにござるよ。皆が暗くなっておるゆえ、雰囲気を変えようかと。眠気も覚めたことでしょう」
「……フン。よい。それで」
信長は眉をひくつかせながらも、なんとか怒りを収める。
秀隆は信長の7つ上で、戦の経験が豊かな武士。信長は戦の際には必ず連れ立ち、これでも頼りにしていた。
「義元が尾張に目指し沓掛城(くつかけじょう)に入ったのが5月12日にございます。そういえば、殿の誕生日ですな。数え年で27歳、満年齢では26歳でありましょうか。おっと、これはいけません。一週間過ぎておりますが、急ぎケーキを用意させしましょう!」
「生まれた日を祝う習慣などないわ! それに、戦国時代にケーキなどあってたまるか!」
「ですから、ジョークですって。殿は真面目すぎていけませんぞ」
信長は立ち上がって、床の間の刀を抜こうとするが、思いとどまって、どかっと床に座り込む。
当時は元旦に歳を取るという考え方をしていた。
アジア圏では標準的な数え方で、韓国も2023年5月までこの方式を採用していた。これで韓国人は1、2歳若返ることになる。
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