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「誰か、アンソニーを知らない?」
それから、瞬く間に月日は流れた。
マリアは順調に回復し、すっかり痩せこけていた顔や手足は徐々にふっくらとした肉付きを取り戻していた。
マリアは、病み上がりだというのに、毎日町に出掛けては、アンソニーの行方を聞いて回った。
しかし、その結果は芳しいものではなかった。
アンソニーの行方について知る者は誰もなかった。
「マリアさん、あんまり無理をしてはいけませんよ。」
「リロイさん…ご心配して下さってどうもありがとうございます。
でも、私、もう大丈夫ですから…」
アンソニーはマリアに『リロイ』という偽の名前を伝え、なにくれとなくマリアの世話を焼いていた。
時にはマリアの愚痴を聞き、そしてまたある時はマリアの涙を拭い、みつかることがないとわかっていながら、アンソニーの捜索にもいつもずっとついて回った。
いつしか、『リロイ』はマリアの心の支えとなっていた。
そんなある日のこと…
「マリア…実は今まで黙ってたんだけど…」
マリアとアンソニーの共通の友人・ジャンが言いにくそうに口を開いた。
「何なの?ジャン…」
「実はな、マリア…
……俺…見たんだ。」
ジャンは酷く言いにくそうに、ぽつりぽつりと話し始めた。
「見たって…何を見たの?」
「あのな……アンソニーの部屋にとても綺麗な女の人が訪ねて来たのを…」
「な、なんですって!?」
マリアは目を大きく見開き、ジャンの顔を凝視した。
ジャンはその視線に困ったような表情を浮かべた。
「それが、あの日…
あんたが奇蹟的に元気になった日だったんだ。
つまり、アンソニーがいなくなった日だ。
……もしかして、アンソニーはあの女と一緒に町を出たんじゃないだろうか?」
「そ、そんな…
まさか…アンソニーがそんなこと…」
「あぁ、わかるよ。
あいつは、心底マリアのことを心配してた。心配になるほど、マリアのことを考えて、思い詰めてた。
でも、だからこそ、張りつめてた糸が切れてしまったんじゃないだろうか?
疲れすぎて、どうしようもなくなって…それで、好きでもない女とここを離れたんじゃないだろうか?」
「そんな……」
マリアの顔は青ざめ、その身体は小刻みに震えていた。
「俺も最初はまさかって思ったさ。
でも、今になって考えると、それ以外には考えられない。
あいつの家にあんた以外の女が来たことだって初めてだし、それにあいつは、あの日以来、煙みたいに消えちまったんだからな…」
信じられない気持ちは強かったが、ジャンの言葉は確かに納得のいくものだった。
マリアは、すっかり混乱し、何も言い返すことが出来なかった。
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