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「リロイさん、どう思いますか?
アンソニーがそんなことをするでしょうか?」
マリアの思い詰めたような言葉に、リロイは顔を曇らせた。
「……そうですね。
アンソニーは確かに真面目でした。
でも、ジャンがそういう女性を見たのなら…
もしかしたら、彼の言う通りなのかもしれませんね。」
「リロイさん!」
マリアは、アンソニーを憤った瞳でみつめた。
ジャンの見た女があの時の魔女だということは、当然アンソニーにはわかっていた。
だが、アンソニーには真実を伝えることは出来ない。
それに、マリアの気持ちを諦めさせるには、いっそ、その話が真実のように言った方が良いのではないかと考えたのだ。
(僕はもう一生アンソニーだということは打ち明けられないんだ。
こんな老人になってしまった僕には彼女を幸せにしてあげることも出来ない。
だったら、もういっそのこと、きっぱりとアンソニーのことを忘れてもらった方が彼女のためだ。)
それはとても辛い決断だった。
今のままなら、アンソニーだということを名乗れはしないものの、いつでも彼女と会って、親しく過ごすことが出来る。
しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。
アンソニーのことを忘れなければ、マリアは幸せにはなれないのだから…
「マリアさん、アンソニーのことはもう忘れて下さい。
あいつはきっとあなたを捨てて、別の女とどこかへ行ったのです。
だから、あなたも早くあいつのことなんか忘れて、幸せになって下さい。」
「そんな…私はアンソニーを忘れることなんて出来ません。
彼が女の人とどこかへ行ったのなら…戻って来る日を待ちます。
きっと、彼は戻って来る。
私…そう信じてます…」
「マリア……」
アンソニーは思わずマリアを抱きしめたい衝動にかられた。
しかし、そんなことは出来るはずもなかった。
俯き、拳を握りしめ、唇を噛んでじっとその衝動に耐え忍んだ。
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