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それから数年の月日が流れた。
あの日以来、マリアがアンソニーの元を訪ねることはめっきりと少なくなった。
それは、アンソニーにとってとても寂しいことだったが、それがマリアのためなのだと自分に言い聞かせた。
ある日、アンソニーは、風の便りで、マリアが結婚するという話を聞いた。
そのことで、アンソニーの心は千々に乱れた。
(マリアが結婚する……)
安堵にも似た感覚を覚える反面、哀しさや寂しさがアンソニーの心を支配した。
(本当にこれで良かったんだろうか…
僕は、マリアのために自分の人生をすべて棒に振った。
たいして幸せを感じることもないままに、僕は突然未来のない老人に変わってしまった。
マリアには感謝されることもなく、それどころか、僕はマリアを捨ててどこかの女性と町を出た薄情者だということになっている。
なんてことだ…
今は、まだかろうじて自分の身の回りの世話が出来てはいるけれど、それもきっとあと少しのことだ。
そうなったら僕はどうなるんだろう?
僕には面倒をみてくれる人もいない…
老い先短い人生を、たった一人でどうやって生きていけば良いのか…)
アンソニーは絶望的な気持ちを感じていた。
今まではあまり感じることのなかった「死」というものがとても身近に感じられ、彼の心は不安で覆いつくされた。
ただ、それでも、彼には小さな希望があった。
自分がアンソニーだということをマリアに話せば、それで彼は元の若くて生命力に溢れたアンソニーに戻ることが出来るのだ。
(だが、そうすれば、マリアはまたあの頃のような重病人に戻ってしまう…それだけじゃない、きっと、マリアはその後……)
そのことを考えると、アンソニーの胸は酷く痛んだ。
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