言えない名前

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『それでも良いんじゃないか? 彼女が元気になったところで、愛し合うことも出来ないどころか、他の男に取られるくらいなら、いっそ死んでしまった方が良いんじゃないか?』 アンソニーの中の悪魔が囁いた。 そう、たった一言… 「僕がアンソニーだ。」 そう言えば、アンソニーは元通りの若者に戻れる。 これから先、また他の誰かを愛し、新たな人生を切り開いていくことが出来るのだ。 『それに、どうせもともとマリアは助からない運命だったのだ。 それを思い悩むことはない。 何もおまえのせいじゃないんだからな。』 再び、彼の中の悪魔が囁いた。 しかし、それでもやっぱり最後はそれとは反対の想いに行きついた。 (マリアの幸せを奪うことは出来ない。 これは僕自身が決めたことなんだ。 彼女が元気になれるのなら、僕はどんな辛いことにも立ち向かうと誓ったじゃないか。 彼女の元気な姿を見た時、あんなに心が震えたじゃないか。 そう…僕には絶対に言うことは出来ない。 僕はもうアンソニーとは違う…老人のリロイなんだ、それ以外の誰でもない。)
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