言えない名前

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「あ、あの…… どんな願いでも叶えてもらえるんですか?」 「そりゃあ…私は魔女だからね。 たいがいのことは叶えられると思うけど…」 魔女がそう答えると、アンソニーは思いつめた様子で魔女の傍に近付いた。 「では…マリアを… 僕の恋人のマリアを助けて下さい! 彼女は、重い病気にかかっていて、明日をも知れない命なんです。 どうか、彼女の病を治して下さい!」 アンソニーの真っ直ぐな瞳に、魔女は少々たじろぎながらも、その真剣な想いを受け取った。 「病気を治したり、命を長らえる魔法っていうのは、特別でね。 とても難しく、そう簡単に出来るもんじゃないんだよ。 その病気の質を調べ、必要な材料を集めて…とにかくずいぶんと時間のかかるもんなんだ。」 「……そうですか。やはりだめなんですね。 彼女にはそれほどの時間は残されていない。」 「だめだとは言っていないよ。 他に方法がないわけじゃない。」 「えっ!?」 「……ただ、それにはとても大きなリスクが伴う。」 「ど、どういうことですか!?」 魔女はもったいぶった咳払いをひとつした。 「一番簡単な方法は、若くて健康な人間のエネルギーをあんたの恋人に注入する方法だ。」 「そ、それなら僕を使って下さい! 僕のエネルギーを彼女に…」 「……わかってるのかい? そんなことをしたら、あんたがどうなるか…」 「……え?」 「あんたは若さを吸い取られ、老人のようになってしまうんだ。 ……それでも良いのかい?」 思いがけない魔女の言葉に戸惑ったアンソニーは、一点をじっとみつめ…やがて、心が決まったかのように深く頷いた。
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