言えない名前

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(な、なんだ、これは…) 手の中の人形がどんどん熱を帯びて行くことにアンソニーは気付いた。 薄気味の悪い詠唱が続く中、不安と興奮を胸に、アンソニーはひたすら祈っていた。 この魔法が無事に成功し、マリアが元気になれるようにと。 「あっっ!」 人形が火のように熱くなり、思わず、アンソニーが手を放してしまったのと同時に、魔女の詠唱はぴたりと止まった。 泥人形は、激しい炎に包まれたかと思うと、次の瞬間には黒い炭となっていた。 「目を開けて良いよ…」 「は、はい…」 アンソニーが開いたその眼には、いつもよりぼんやりと部屋の様子が映った。 「どうだったんです? マリアは…マリアは元気になったんですか?」 急に声を出したせいなのか、自分の声がかすれていることにアンソニーは気付いた。 「……あぁ、もちろん成功さ。死なずに済んで良かったね。 さぁ、これでライアンを助けてもらったお礼は済んだよ。 それじゃあ、私は行くからね… あ…さっき言ったことを忘れるんじゃないよ。」 「あ、ありがとうございました!」 立ち上がろうとしたアンソニーは、腰が酷く痛むのを感じた。 歩こうとすると、今度は膝が痛む。 アンソニーはゆっくりと歩き、鏡の前で立ち止まった。 (こ、これは…!) 鏡の中にいたのは、つい先ほどまでとは別人のようになったアンソニーだった。 艶やかだった黒髪は、白く薄くなり、たるんだしわだらけの顔には茶色い染みが点在し、腰は曲がり、背もいささか低くなったように見えた。 (これが、僕……) あまりの衝撃に、アンソニーは声さえ出せずにその場に立ち尽くしていた。 (なんてことだ… 僕はこんなに老人になってしまったのか… ……でも…これでマリアが元気になれたのなら… そうだ、マリア!) アンソニーは痛む身体を引きずり、アパートを出て、診療所に向かった。
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