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「マリア!」
病室には医師や大勢の人間が集まっていた。
ベッドの縁に腰かけているのは、花のように鮮やかな桜色の頬をしたマリアだった。
アンソニーは魔女の魔法が成功したことを確信し、熱くなる胸を押さえた。
「……あなたは?」
マリアは怪訝な顔で、アンソニーをみつめた。
「ぼ、僕は…あ……」
名前を言っては、魔法が解けてしまうことを思い出し、アンソニーはその言葉を飲みこんだ。
「僕は、アンソニーの親戚の者です。」
「アンソニーの?
アンソニーがどうかしたんですか?」
「え…あ…あぁ、あいつは急な用が出来てまして…しばらくここへは来られないから、そのことをあなたに伝えるようにと…」
「そ、そんな…アンソニーはどこへ行ったんです?」
「それは僕も聞いてないんです。
なにしろ、とても急なことのようで…
それより、マリアさん…あなた、重病だとお聞きしていましたが…」
「え、ええ…信じられないことなんですが、私、急に元気になったんです。
昨日までこうやって座ることさえ出来なかったのに、今はなんだか身体中に元気がみなぎっていて…
お医者様も奇蹟だっておっしゃってるんですよ。」
「そうでしたか…
良かった…本当に良かった…!」
アンソニーは、マリアの両手を握りしめ、涙を流してそう言った。
「そんなことより、アンソニーは本当に出て行ってしまったんですか?
行き先に心あたりはないんですか?」
「え、ええ…何も…」
「僕がアンソニーだ!」そう言うのは簡単なことだが、そんなことを言っても今の変わり果てた姿を見て、マリアがその言葉を信じるはずがない。
それに、言ってしまえば魔法は解け、マリアはまた重篤な病状に戻ってしまう…そう思うと、やはり、アンソニーには本当のことは言えなかった。
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