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花吐き病発症しました1
「じゃあ明日な」
「あれ、陽翔今日はバイト? なんだ遊ぼうと思ったけど、じゃあ明日な」
「悪いな。また明日」
授業終わりのホームルームが終って鞄を掴み教室を出ようとしたところで拓真に声をかけられた。拓真とは同じゲームが好きでよく一緒にゲームをしているから、多分その誘いだったんだろう。だけど今日はバイトの日だ。そう言うと、明日な、と言ってくれる。
ガヤガヤとした廊下を足早に歩く。今日は少しホームルームが長引いたから、バイトに遅れたら困るからだ。
バイトはファーストフード店で昨年からバイトしている。立ち仕事は結構キツいけど、店長や他の学生のバイトはもちろん、主婦のパートさんといったスタッフが明るくて優しいので楽しくバイトができている。特に同年代の高校生のバイト仲間とは仲が良く、バイト終わりに店でポテトをつまみながらダベって帰ることも多い。とにかく楽しくバイトができている。今日はそんなバイトの日だ。
店に着くとバイト仲間の佑樹が先に着替えていた。
「おはよ」
「おはよ」
何時でも挨拶がおはようございます、なのは慣れた。
この佑樹は、ここで一番仲の良いバイト仲間だ。佑樹は話があうからお客さんが途切れたときなんかはコソコソと話をして楽しい。
着替えて店内に入ると、佑樹がフライヤーをやっていたので俺はラウンド(店内掃除)に入る。
「ラウンド入りまーす」
ファーストフードでも少しお高めのこの店は、高校生の客が少なく、社会人の客が多い。だから平日の昼間である今は店内には本を読んでいる女性とお喋りに花を咲かせている女性二人組だけだった。
テーブルと椅子を拭き、整えた後はトイレ掃除だ。と言ってもこまめに掃除が入っているから汚くはない。が、今日は床に花が落ちていた。
なんでトイレの床に花なんて落ちてるんだ? 花を持ったまま入店した客の服に花がついてて、それが落ちたのか? どうもよくわからないいが、このままにしておくわけにはいかないので、ゴミとして捨てるために花を拾った。
三時間のバイトを終えると、今日も佑樹とポテトを摘みながらひとしきり話をする。
「お疲れー」
「そうだ。今日さ、トイレ掃除したら花が落ちてたんだよ」
「花? どうして花が?」
「わかんない。不思議だよね。花を持って来店して、その花が服についててトイレに落ちたのかな、とか思ったんだけど」
「えー。落ちるなら席の床に落ちない?」
「だよなー。なんでだろう」
ラウンドのトイレ掃除でトイレに花が落ちていたことを佑樹に話したけど、そっか。トイレに花が落ちてるのは不自然か。でも、落ちてたのは事実だし。ちょっと不思議。なんでだったんだろう。
「落ちてたのは一輪だけ?」
「うん。頭の部分一輪」
「そしたら、床に落ちずにトイレまで行っちゃったっていうのかな」
「だろ? そう思うだろ」
「まぁ、それしか思いつかないよな」
佑樹と話しても結局はそこに落ち着いた。というか、そこにしか落とし所がないっていうだけだけど。
でも、佑樹に花のことを話した後はすっかり忘れて、週刊の漫画雑誌を買って家に帰った。
「おかえり。ご飯温めるから着替えてらっしゃい」
「はーい」
二階にあがり、鞄と漫画を部屋に置いて着替えてから下に降りる。
俺がバイトの日は、先に母さんが食べているから、いつも一人で食べている。ちなみに父さんは夜遅いので、一緒に食べることはない。
「いただきまーす!」
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