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「おれは、カイヤがいちばんだ。カイヤだけをだいじにする」
遠い日に聞いた言葉が、まどろむ僕の心を揺らす。
例え僕が遠くに行っても、彼はその言葉を思い出してくれるのだろうか……。
◇◇
神聖ラファウダ王国。
この国は太陽を司る大神ラウが兄弟である愛の神ファダと共に創りあげた。ラウの半身であるファダは両性で、大神の弟であり妹でもある。慈悲深きファダはラウと共に全ての愛を讃え見守る存在だ。
愛の神に見守られたこの国には、一つの伝説がある。人には皆、この世のどこかにファダが定めた唯一人の相手、番がいる。番との絆は何があっても、切れることはないのだと。
そんな愛が溢れた国で、物心ついた頃には、僕は母と二人だった。
重厚な城壁に囲まれた城の中、従者に囲まれた何不自由ない生活。隣国との境となる大河を臨み、国防の要となる地で自然に囲まれて育った。
父は国中に知らぬ者のない辺境伯で、母は王家に繋がる公爵家の出。貴族によくある政略結婚だ。それでも母は文句ひとつ言わず遠路はるばる嫁いできたらしい。王国屈指の美丈夫と謳われた父を、一目見た時から慕っていたのだと言う。
ただ、父の気持ちは母にはなかった。彼には自分の領地に唯一人の番がいたのだ。母には親愛を、番には情愛を。定められた婚約者も番も、父は受け入れた。
母は第一妃で、番は第二妃。母が第一妃だったのは何よりも家柄が良かったからだ。国王は年の離れた従妹である母を実の妹のように可愛がっていた。番を大事にする風習のある地でも、王家の威光を抑えることはできない。
父は折々に僕たちの元を訪れる。母と僕の誕生式は盛大に行われ、結婚記念日には必ず、自ら贈り物を手にやってくる。幼い僕の頭を撫でながら、彼は雄々しい夫であり優しい父の顔になった。
母はいつでも、そんな父を見て頬を染め、嬉しそうに出迎えていた。いつまでも少女のような母。父は仕事以外のほとんどの時間を、愛する番やその子どもたちと共に過ごすというのに。
そんな父母との暮らしを僕はかれこれ、十八年も続けようとしている。
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