辺境伯家の番たち

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 領地から出たいと思っていたけれど、不思議と出られると思ったことがなかった。貴族の子が王立学院に進むことは知っていたが、誰からも勧められなかったのだ。母も僕が近くにいるのは当たり前だと思っていたようだった。でも、考えてみれば王都にも屋敷があるのだから、行こうと思えば行けたのだろう。遠方の貴族の子弟の為の寮もあるのだと言う。僕はただずっと、家庭教師について学んでいた。 「この地を離れて王立学院に進むことを、考えたことがありませんでした。学院に進んでいれば、もっと多くの知見が得られたのかもしれません」 「では、私と一緒に行くことも考えていただけませんか?」 「えっ?」  王子の言葉の意味を考えていると、父がやって来た。王都の様子を聞かれて、王子はすぐに応じる。二人が話し始めたので、そっと広間を抜け出した。  中庭に向かって、どんどん歩いた。少し一人になりたかった。中庭の奥に、小さな子どもたちが隠れられるような茂みがある。そこで僕は、弟のセレンと一緒によく隠れんぼをしたものだった。  あの茂みは、まだあるのだろうか。体はずっと大きくなったのに、ぼくはなぜか、そこを目指していた。 「この辺だったと思うんだけど」  茂みは刈り込まれていたが、細長い椅子が置かれていた。椅子に座ると、周りの木々の影で座った者の姿は隠されてしまう。僕はそこに座って、ふうと息をついた。静かな中庭には誰もいない。宴の音楽や人々の話し声が風に乗って聞こえてくる。  あれは幾つの時だっただろう。城で働く者たちがひそひそと話しているのを、うっかり聞いてしまったのだ。  ――ご領主様は、第二妃である番様を一番に思っておられる。王家と縁続きの姫君は仕方なく娶られた。その証拠に、少しでも時間があれば西の棟に向かわれる。  僕と母は城の東に、番と弟たちは西に住んでいた。そして父は僕たちの元には滅多に訪れなかった。  あの頃は、父がまだ恋しい年頃だった。父は僕たちのところに来ると、いつもとても優しかったから、どうしてずっと一緒にいてくれないのだろうと思っていた。だから自分たちのところにいるよりも長い間、番と弟たちのところにいると知ったのは衝撃だった。
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