辺境伯家の番たち

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「僭越ながら、城外に出るとあれば危険も増しますので、私がお供致します」 「……私には王都からの近衛と騎士たちがいる。貴殿の心配は不要かと思うが」  やんわりと王子に断られているが、セレンは聞き入れない。馬車に僕と王子が乗り、自分は馬で行くつもりだと言うと、王子は笑顔で承知していた。  正直、僕は乗り気じゃなかった。普段静かに暮らしているので、早くいつもの暮らしに戻りたい。しかし、王子は僕を見るたびに笑顔になるので、僕も愛想笑いに励むしかない。 「カイヤ殿は母君によく似ておられる。父は貴方の母上を可愛がっていらしたので、今でも会いたがっています。なかなか王都にお見えにならないけれど」  昨夏王都に行った時には、国王陛下にもお会いして大層喜ばれた。母に生き写しだ、よく顔を見せてくれと。 「うーん。そういえば、母は僕が知る限り里帰りしようとするのを見たことがありません。そもそも城から出ないし」 「辺境伯が大事になさっておいでですからね。誕生式一つとっても、御心がわかるというものです」  僕はこの時ばかりは思い切り顔をしかめてしまった。あれはただの罪滅ぼしだ。僕の様子が変わったのを見た殿下が怪訝な顔をする。 「……どうなんでしょう。父とは、あまり話すことがないので」 「辺境伯は家族思いだと評判ですよ。愛情が深すぎて、妻子を王都にもお出しにならぬのだと噂の的です」  家族……、家族か。父の家族とは誰だろう。きっと、番と弟たちなのだろう。多くの日々を彼らと共に過ごしているのだから。 「……僕は、家族なら出来るだけ一緒にいてほしいなと思います。お互いに愛情を確かめ合って日々を過ごしたい」  ぼそぼそと呟くと、王子はうんうんと頷いて、僕の手を取った。 「カイヤ殿はさすが辺境伯の御子だ。まことに愛情深くていらっしゃる。出来れば、その御心の中に私も入れていただきたい……」 「はあ」 王子の美しい顔が近づいてきた時に、がたんと馬車が止まった。扉が叩かれ、僕がそちらを向くと、セレンが勢いよく扉を開ける。 「到着致しました」
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