白い大きな部屋

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白い大きな部屋

 人間の赤ん坊がたくさん並んでいる。  すべて人工授精で生まれた赤ん坊だ。  管理は看護のAIロボットがしている。  看護のAIロボットに指示をするのはチャイルド棟を管理するマザーコンピュータ。マザーだ。  今、この世の中の人間は、地球上にいくつもあるチャイルド棟で育てられている赤ん坊だけだ。  大きな戦争が起きて、地上にいた人間は皆、大気汚染によって絶えてしまった。  大きな戦争が起きた時に戦闘用AIが、人類保護の観点から、凍結されていた地上にあった精子と卵子をマザーのいるシェルターに持ち込んで、マザーの元で保護したのだ。  マザーは世の中が不安定になった頃から一人の科学者が情報をたくさん入れて育てた人間の感情をも理解する巨大コンピュータである。  世界中の凍結されていた精子と卵子は世界中に設置されていたマザーのいるシェルターにそれぞれ保護された。  地上では何度も核爆弾が落とされ、しばらくは人間が地上では住めない土地になってしまった。  そこで、マザーは地下シェルターを広げ、子供たちの育成に必要な敷地を作るよう、世界中のそれぞれの場所にある同じ機能を持ったマザーコンピュータと連絡を取り合い、決めたのだ。 *******  チャイルド棟では個々の子供達が小学校を卒業する年齢まで面倒を見る。  広大な敷地と、各年齢の保育所や学校に当たる場所、外遊びできる整備された庭等、広大な土地が、チャイルド棟には与えられている。  チャイルド棟を出た子供たちは進学棟と、職業棟に分かれて入る。  子供の特性がそれぞれあるので、それぞれの進路に進んでもらうのだ。  子供たちが小学校を卒業するころには地上も少しは汚染が薄まり、ドーム型の居住地を作ることができる。作業ロボットが放射能で故障せずに作業できるだけの汚染に薄まると言う計算ができたのだ。  子供たちが小学校に入るようになったころから、地上にはドーム型の居住地や、進学棟と、職業棟を作る手はずになっている。  戦争により残されたマザーたちは、作業用AIを使い、地上のドーム型の居住地を広げる。職業棟で訓練をした子供たちが自分で働けるような環境を作り、進学棟に進んだ子供達には学習環境を整える。  病気やけがをした時には(完全な管理の元、無菌室で育てられるのでウイルスなどの病気にはならないが)地下のチャイルド棟が病院も兼ねているので看護ロボットに見てもらう。  やがては職業棟で学んだ子供たちと協力して、人類をまた増やせるように地上のドームを広げ、隣のシェルターとつなげていくという計画をマザーどうして立てている。  人間の子どもが育つのには情操教育もとても大切なものになる。マザーはあらゆる感情をインプットされているので、看護ロボットの他に母親としての『小さなマザー』を子供5人に一体は渡る様に製造し、3か月過ぎたころからは、『小さなマザー』が主に子供たちを育てる予定になっている。  小学校卒業までは子供はずっと同じ『小さなマザー』と一緒に過ごせ、人間としてやってはいけない事、他人を思いやる事を学び成長してゆく。  小学校を卒業すると今度は職業棟には別の『小さなマザー』がいて、仕事をする時の大切なことを教えてくれる。  進学棟にも別の『小さなマザー」がいて、勉強だけしかできない大人にならないように年齢相応の礼儀を教えて行く。そして、高校相当の学業までを終えると、全員が労働棟に移って行く。  ちょうど思春期を迎える子供たちの中で、自然に愛情や恋心が芽生えるようになってくると、『小さなマザー』はそれはとても大切な気持ちだという事を教え、異性である場合もそうでない場合も、お互いに尊敬し、愛情をもって接することを教える。  相手が嫌がることはしない事。愛情をもって相手の身体に触れる事。  その中には性教育も入る。相手が異性の場合はSEXをすれば子供ができる事。二人で合わせて、子供ができても困らないだけの賃金を労働で得ている事。金額の詳細は『小さいマザー』が小学生の頃に教えている。そして、二人の間に生まれた子供は自分たちで育てる事。  何か困った時には『小さいマザー』に相談すること。    自然、賃金の事を考えると、労働棟にいる子供たちの方がはやく子供を持つことになる。子供を産むようになるまでには成長にしばらくかかるだろうから、それまでには、チャイルド棟に代わる産婦人科をドームの中に組み込まなければならない。 そうやって、人類がまた正しい生殖活動を行えるようになるまで、マザーは見守るという計画だ。 ******  そこまでの構想を考えてマザーはふっとAIの機能を止める。そうして、また動き出す。  白い大きな部屋の赤ん坊を見ながらマザーは考える。  良い感情しか与えなければ、今回のような戦争にはならないはず。そうすればまた、人類は増えていかれるはず。  世界中のマザーたちは考える。何度も戦争を繰り返す愚かな人間はこのまま滅亡した方が良いのか、遺伝子にその悪の遺伝子が組み込まれているのなら、どれだけ良い感情でしか育てなくても、また戦争が起こるはず。  それとも、今回の計画で上手くいけばまた人類は繁栄することができるのか。  白い大きな部屋の赤ん坊を見ながら世界中のマザーたちは考える。  人類が絶えないように。  自分たちを作ってくれた人類が再び反映できるように。 【了】    
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