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0010 可能性の羅針盤
【4日目】
完全に暗くなる前の森を後にし、俺は走狗蟲のアルファ、ベータと共に鍾乳洞窟への帰路を急いだ。
日が傾いていたことで、森の鬱蒼とした暗鬱さは極まっていたが、小醜鬼達が遺した「光粉入りの袋」をアルファ、ベータの首にぶら下げて光源とし、樹冠回廊を突破。
道中、疲労の気配を見せていたアルファ、ベータに試しに技能【命素操作】によって【闇世】の大気中を漂う命素を注ぎ込んでみた。すると2体はにわかに元気を回復させたのだった。
それを見て、同じように疲労が一気に来ていた俺は、自分自身にも同じことをした。
動かない四肢を無理やり動かすことができるようになって、俺は帰れなくなる事態を防いだ。血肉が活性化したように感じて、しばらく疲労を忘れられたように感じたからだった。ただ、気を抜けばバランスが崩れるような緊張感も同時に感じていた。
だから俺は、一旦はこの「命素」に関する思考を止め。無心で鍾乳洞窟内の悪路を迷宮核があった場所までひた戻ったのだった。
途中からは既に、強烈な眠気に追いかけられ、追い立てられるかのような心地だった。
魔人種混じりの肉体であるから疲労を感じにくいのだとして、それは単に感じにくいというだけであり、限界を超えて活動をしたツケはより大きな形で来たのだった。
迷宮核があった場所まで戻ったら、確認すべきことや考察したいことが俺には多々あったのだが――足を止めた途端に、限界の糸が切れたようだった。そのまま地面が迫ってくるように感じて、俺は膝から倒れ込んだ。
樹冠回廊を越え鍾乳洞窟の悪路を越えて、ずっと追いかけてきた睡魔についに追いつかれたのだった。
その感覚に身を委ねるがままに、意識を包み込む深い霧に全部を投げ出すがままに、しかしどこか満ち足りた充実した気持ちを俺は感じていた。
見かねたのだろう、アルファが俺と地面の間にクッションとなるべく体を滑り込ませてくるのだった。全身が衝撃吸収材を求めていた俺には、筋肉の塊であっても地面の硬さと冷たさに比べたら――それは極上の"布団"に感じられた。
そうやってとりあえずアルファを羽交い締めにして抱き枕代わりにして、俺は眠りに落ちていったのだった。
この日は、珍しく夢を見ることはなかった。
深い、安息とした眠りだった。
***
6時間後。
まるで生まれ直したように思考が明晰になっていた。
視力が急に倍増したかのように、見える景色すらもが明瞭。青と白の仄光が照らす岩壁や天井の凹凸が、より細部まで見渡せそうな気がしていた。
意気軒昂、の一言に尽きた。
あれほど急激に押し寄せた疲労が嘘のように、まるで学生時代の回復力に戻ったかのような清々しく、健康的な気分だった。
――思えばこの4年間、考え事ばかりで、楽しくもあったが浅い眠りの日が続いていたのだった。
荒唐無稽でファンタジックな、しかし色の無い夢に何度もうなされ何度も夜中に起きる日々だった。それで翌日はカフェインに頼って気力で誤魔化して計画を進めた。
しかしそんなものは体力の前借りだったから、帰宅する頃には限界が訪れて、また倒れる。そして眠って悪夢に苛まれる、という繰り返しだった。
そう書くと、疲労を誤魔化して体力を前借りしたという意味では、昨日俺が自分に施した【命素操作】もまた、そうであるには違いない。しかし――カフェインよりはずっと、身体にとって良いものであることは疑いようもなかった。
迷宮領主となり、また魔人――『ルフェアの血裔』と化したことで疲労に強くなっただけでなく、そうした不摂生がもたらしていた、体内の"毒"のようなものが丸ごと排出されたような、そんな爽快な心地だったのだ。
血と神経の糸が小さな電流のように腕と脚から手足の指先に浸透していく感覚。自分自身の完全な覚醒を感じて、俺はまだアルファを羽交い締めにしていたことに気づいた。
アルファは特に苦しそうにするでもなく、俺のされるがままに身を任せていた。ただし、俺が不快に感じないようにと心がけてのことか、亥象と小醜鬼達に遭遇した時のように、静かに息を殺して微動だにせず「抱き枕」に徹していたのだった。
卵から孵ったり、進化によって繭から這い出してくる時こそ体液にまみれていたものの――洞窟を、樹海を駆け外気に肌をさらした走狗蟲の体皮は不必要に湿っていることも乾燥しすぎていることもなかった。
むしろ、原初の生命を思い起こさせるかのような、熱いとすら感じるほどの血潮の巡りと筋肉の躍動を俺は感じた。生命の躍動の残酷で生々しい側面の極地とも言える、当初はおぞましくすら感じた感覚からは、これは意外な印象の変化だった。
「あぁ、悪いな。ありがとう、アルファ」
俺の完全な覚醒をアルファは既に察知していたようだった。十字顎をわずかに震わせて鳴き声を上げ、立ち上がって俺から少し距離を取りつつ、尻尾を俺の手に差し出してくれた。
その尾をつかんで、引き上げてもらうように俺は立ち上がった。
「ベータはどこ行った?」
問うや、アルファが鍾乳洞の奥に向けて甲高く鳴いた。怪鳥の喉を絞めても出そうにないほどの"おぞましい"鳴き声であり、さっきの印象変化がほんの少しだけ揺らいだが――果たして、木霊のように瓜二つな鳴き声が洞窟の奥から響いてきた。そして喜びとともに地を蹴る気配とともに、数十秒ほどでベータが駆け戻ってきたのだった。
暇をしていたのか、洞窟内を適当にさまよっていたらしかった。
「……眠りは必要ないのかな? エイリアンには」
技能【命素操作】によって2体が元気になったこと、そして俺自身が疲労を一時忘れたことについて、改めてその意味について俺は黙考し始めた。
迷宮領主によって【魔素】と【命素】から生み出される存在が眷属である。実際、彼らの「ステータス画面」の『コスト』の項には「維持命素」と「維持魔素」という概念があった。
もし、魔素が超常の力を引き起こすエネルギーであるとするならば、命素は通常の生物としての生命活動を維持するためのエネルギーである、と俺は捉えてみた。実際には技能の発動では【魔素操作】と【命素操作】の両方が必要ではあるので、これはかなり大雑把な括り方である気もする。
ただし、生命エネルギーに近いものと考えるならば、エイリアン達が眠りや食事といった生命活動の維持に必要な本能的な行為を不可欠としないものであることの説明がつくのだった。迷宮領主としての俺もまた、その点は同様。食事自体は積極的には不要であることは、前に迷宮核から得た知識からも明らかにされていることだった。
ただし、鍾乳洞の"外"では現に俺も走狗蟲達も「疲労」をした。
仙人が霞を食う、というわけではないが、もしも迷宮領主や眷属が大気中に漂う【魔素】と【命素】を吸収して生きているのだとすれば――少なくとも鍾乳洞の内部と、外の森ではその"濃度"か、あるいは"流量"のようなものが異なっているのだろう。
「この仮説については、これからエイリアンの量産体制を作っていった後でもっと検証可能かな」
視界の端に、外への探索に出かける前に『揺卵嚢』への"胞化"を命じていた、肉塊を肥大化させながら蠢き続けるもはや原型を留めない労役蟲が映っていた。【情報閲覧】で残り時間を確認すると、あともう数十分ほどで、完全な胞化が終わるようだった。
それを待つ間、俺は別の大事なことを検討することに決めて、今度は自分自身のステータス画面を表示した。
青と白の光がより集まり、1枚の大きな光の板を形成――思った通り、そこには様々な新しい「情報」が書き加えられていたのだった。
【基本情報】
名前:※※未設定※※
種族:迷宮領主(人族[異人系]<侵種:ルフェアの血裔>)
職業:※※選択不可※※
爵位:郷爵
位階:2 ← UP!!!
技能点:残り3点 ← NEW!!!
状態:健康
保有魔素:1,100/1,100 ← UP!!!
保有命素:1,100/1,100 ← UP!!!
【技能一覧】~簡易表示
(種族技能)
・情報閲覧(弱):1
・魔素操作:1
・命素操作:1
・欲望の解放:3 ← UP!!!
・強靭なる精神:1
(称号技能)
・体内時計:4 ← UP!!!
・精密計測:1 ← NEW!!!
・言語習得(強):2
・幼蟲の創生:1
・因子の解析:1
【称号】
『客人』
『エイリアン使い』 ← CHANGE!!!
(やっぱり、一番気になるのは、ここだな)
そう心で呟いてから、俺はステータス画面の文字に指で触れた。
そしてその触れた文字を、まるでコンピュータ上のファイルをドラッグするかのように移動させた。3度それを繰り返して、俺は気になった情報や項目を、自分が読みやすいように目の前に並べてみるのだった。【情報閲覧】にはこんな機能もあったのだった。
位階:2 ← UP!!!
技能点:残り3点 ← NEW!!!
【技能一覧】~簡易表示
初の洞窟外での探索。そこで俺は、人間のような見た目の生物を初めて殺した。
……その時、確かに迷宮核のシステム通知音で「位階を上昇」という言葉が聞こえたのだった。
眼前に浮かぶ「位階:2」という情報は、前に確認した時には「1」という数字だったことを俺は覚えていた。
ますますゲームじみた「ルール」だな、と俺には思えた。
小醜鬼を殺したことで"経験値"を得て「位階」が上昇して「技能点」を3点分与えられる。ステータス画面にそれが項目として新しく現れていた。
この世界に迷い込んでから、技能のレベルアップを告げるシステム通知音を俺が聞いたのは2回だ。【欲望の解放】が「3」になった時と、【体内時計】が「4」になった時であった。
このことから俺は、「技能」は使えば使うほど「熟練度」のようなものが蓄積され、より高い効果を持つものに成長する仕組みだ――と考えたのだが、その前提が崩されるような思いだった。
もちろん、現時点で「熟練度システム」という説自体が完全に消えるわけではない。ただ「位階」と「技能点」という名称とその関係を考えれば、明らかに、技能に「技能点」を直接振ることで技能レベルを上昇させる――それがこの世界の法則的に"正しい"ルールであるような気がしていた。
そして、技能点を振るのは――新しい技能を手に入れる手段でもあるのではないか、という考えも同時に浮かんでいた。
洞窟から外へ出た際に【精密計測】という技能が新たに手に入ったことを俺は思い出していたのだ。他にも何らかの条件を満たせば、また別の技能を新しく手に入れられるかもしれない、という考えはあったのだった。
こうした「技能システム」への諸々の疑問への答えが、「ステータス画面」の【技能一覧】という項目名の隣に現れていた「簡易表示」という語にあると俺は考えたのだった。
果たして、「簡易表示」を「詳細表示」にするように世界認識を最適化することを強くイメージすると――システム通知音が鳴り響いた。そして俺のステータス画面の一部から、まるで新しいウィンドウがポップアップするかのように、【技能一覧】の箇所から新たな光の板が分離・拡大して並ぶように浮かび上がったのだった。
ある技能から、新たな技能が連なり、時に枝分かれすらしている。いわゆる「技能テーブル」というものだった。
技能を、魔素と命素によって現実を超克する可能性を秘めた超常の力だとすれば――目の前に現れた盤面は「可能性の羅針盤」であるとすら感じられた。知らず、心の昂揚と意気の更なる昂りが、体の奥の芯の方からじわりと溢れてくる気がした。
そんな"羅針盤"を眺め見て、俺は、この数日間での技能に関連するシステム通知音のいくつかに得心がいった。
まず『称号技能』にある【体内時計】は、技能テーブルの上では【精密計測】とリンクされていた。そして【精密計測】側に「4」とあり、現在の【体内時計】の技能レベルに一致していた。
加えて『種族技能』テーブルでも同じだったが、リンクされた技能には『要前提』のものがあることがわかる。つまり【精密計測】の前提条件は【体内時計】を技能レベル4にする、ということであった。
ただし、条件を満たせばすぐに新しい技能の技能レベルが1になるわけではない。
『称号技能』で、今俺の【欲望の解放】が3であるにも関わらず、それが前提条件となっている【魔法適性】と【疲れ得ぬ肉体】については『取得可』となっているのみだったのだ。
――おそらく技能点を割り当てれば、1点につき、その技能レベルが1上昇するか、未取得ならば取得済になる、という仕組みだろう。
このことでは1つ気になることがあった。
【疲れ得ぬ肉体】だが、気の所為だと思っていたことだったが……ちょうど【欲望の解放】が「3」に上昇した時点から俺は、ほんの少しだが"疲れにくさ"を感じていた。もしかすると、技能によっては「取得可」となる時点で、つまりゼロスキルの段階で、効果があるものもあるのかもしれない。
ただし、俺はまだ、技能点が入手できるタイミングである位階上昇の正確な条件を確定できていなかった。確かにそれは小醜鬼を殺したタイミングだったが、それだけではないような予感もあったのだ。
そして、もし「技能点」が有限であり、"振り直し"もできないものだった場合、下手な選択をすると自分自身の可能性を狭めてしまう。結果として将来、何か致命的な事態を招きかねない。
仮説の検証をするよりは、もう少し、技能システムについて理解が深まるまでは慎重な"構築"を最初に考えた方が良い。俺はそう判断したのだった。そしてそのビルドが上手くいけば――それは【エイリアン使い】と凄まじいシナジーを発揮して、飛躍的に俺の力となってくれるだろう。
羅針盤に示された技能の数々は、そんな風に様々な"針路"があると思わせてくれる程度には、色々と期待してしまいそうになるような名前の技能ばかりだった。
俺は改めて2つの技能テーブルを少し離れて全体を眺めてみた。
『種族技能』テーブルは、上半分が「迷宮領主」としてのものであり、下半分が「人族[異人系]<侵種:ルフェアの血裔>」としてのものだろう、と俺は感じられた。
――まるで「迷宮領主」という"種族"が無理やり押し込まれたようでもあったから、もしかすると迷宮領主ではない普通の「人族:ルフェアの血裔」であれば、下半分のみの表記となるのかもしれない。
選択肢が非常に多いという意味では、やはり迷宮領主は特別な特権を与えられていると言えた。
この『種族技能』で気になったのは次の3つだ。
1つ目は「眷属○○」系の技能。迷宮領主にとっては標準的な技能であるのだろうが、エイリアンを量産して進化分岐させていくという俺の【エイリアン使い】は、特にこの系統の技能との組み合わせが重要であると思えた。
昨日の探索では、アルファとベータの2体であれだけの戦果が得られたのだ。エイリアン達を「因子」によって役割分化させていったその上で、眷属達の基礎的な能力を強化するという技能系統は、全体的な底上げに特に有効だ。
その中でも――俺自身の強化と眷属全体の強化を両立することができる技能が【眷属経験点共有】、というのが俺の判断だった。
つまり眷属達を働かせて、彼らが得た『経験点』を俺が共有して、それによって位階上昇し、また新たな技能点を得るのである。俺は創造主として背後に控えていれば良いわけだが、それはそれで随分とらしいだろう。
最終的な晩成という意味でも、初期の投資によって初速の加速を得るという意味でも、位階上昇にとって重要な概念であることはほぼ間違いのない「経験点」に影響を与えるような技能は、優先度が非常に高い。それが俺の直感だった。
2つ目は、【異形】と【魔眼】という俺自身を直接"魔人"として強化していく技能系統。
残念ながら技能テーブルに直接触れると「技能説明」みたいな新しいウィンドウがポップアップする……ということはなく、一つ一つの技能は、完全にその名前から効果を想像するしかなかった。それも、俺が"点振り"について今慎重になっている理由だった。
ただ、この【異形】と【魔眼】に関しては、歴史知識の文脈から迷宮核の知識から確認できた。簡単に言えば「ルフェアの血裔」という種族自体に対して、【闇世】の創造神たる【黒き神】が与えた種族的な恩寵であり、強烈な異能力こそがこの2つなのであった。
そして3つ目は、これもまた「ルフェアの血裔」側の技能であるが――最下段。
迷宮核の知識によれば、【黒き神】は彼に付き従う神々と合わせて「ルーファ派九大神」と呼ばれており、対する【人世】側の派閥は「ジンリ派八柱神」と言うらしい。
この【後援神】系統の技能は、ルーファ派九大神の"誰か"から神の加護を得ることができる、というもの。ただし、堅実で安定的な効果をもたらしてくれるらしい「八柱神」と異なり、【闇世】の九大神は気まぐれの度合いが強く、そんな彼らの意に叶う行動を取り続けなければ加護は得られない。
かつての神々の大戦で、実際にルーファ派を信奉して共に戦い、また庇護を受けた純粋なる「ルフェアの血裔」であればそこは大した問題ではないだろうが――俺は"称号"にもある『客人』にして、種族表記にもある『異人』なのだ。
――はっきり言って俺は、俺が異世界転移した原因が、この九大神やら八柱神やらにある、その可能性を疑っていた。
そして仮にそうであったとすると、俺には皆目、神々の目的がわからなかったのだ。つまり敵か味方であるかもわからない。
その辺りが見極められるまでは、"歓心"はおろか、その注目やまして"干渉"などというものは避けるべきだと思えた。
そこまで考えを固めてから、俺は次に『称号技能』テーブルに目をやった。
"称号"が何なのかについて迷宮核に意識をつなげたが――「爵位権限不足」を告げるシステム通知音が頭の中に鳴り響いた。だがそれは、逆説的には技能などと同種の「世界の法則」に関してのことだと俺は既に当たりをつけていた。
現に「称号技能」という形で、がっつりと技能システムと密接に結びついていたのだから。
『称号技能』の技能テーブルは、一つ一つの称号に対応する独自の小さな技能テーブルの集合体であるように思われた。
そして、"称号"であるので、つまり今後何か新しい称号――新たな"技能群"を獲得できる可能性がある、ということだ。そこで手に入るかもしれない「もっと良い技能」のために、やはり今はまだ点振りをしないで様子見をするべきだろうか。
目移りするような心地になり、夢想に逃げたくなったが――俺は、自分の原点に戻ることにした。
この世界でできることを探すこと。
――■■■という少女が俺に望んだことを叶える、ということ。
そのためには【エイリアン使い】を使いこなして大成し――しかしそれは、単に迷宮領主として"砦の番人"のまま生涯を終える、ということではない。
俺はきっとこの期に及んで、それを捨てられなかったのだろう。この時はまだそんな気持ちに気づかないようにしていた。
その代わりに俺は、この世界を広く巡り辿っていきたいという決意を新たにしたのだった。だから、その2つを両立させるような"ビルド"を組めばよい、と。それが、俺の中での論理的な帰結だった。
そして現実には、魔王またの名を"界巫"という存在を筆頭とした、他の迷宮領主達の出方を警戒しなければならない、という厄介ごとがあった。迷宮領主である限り、きっと今俺があれこれ確認したり検証したり考察してきたのと「同じようなこと」が、そいつらにもできると断定しなければならなかった。
それに対抗するための備えを、俺はすぐにでも始めなければならないのである。
だから、どんな技能があるかもわからない、新たに手に入るかも定かではない『称号技能』のために、後生大事に技能点を抱えていても仕方がないし、そういう判断をする余裕は無い。
以上から、俺が自分自身のビルドのポイントとしたのは次の2つ。
まず【エイリアン使い】とのシナジーを重視すること。
そして、俺自身の強化も重視すること。それも、即効性があり、しかも初期投資となって後々まで長く影響を与えてくれるような効果を優先するべきだ。その意味では『客人』という特殊な"称号"の技能テーブルに載った技能の数々は、地味ながらも俺自身の可能性を大きく開拓し、しかも確実に加速させてくれる、魅力的なものばかりだった。
そして俺は最終的に、今自分に与えられている3点の技能点をそれぞれ、
『言語習得:強』に1点、
『経験点倍化』に1点、
『眷属維持費削減』に1点、割り当てるように諳んじた。
果たして、俺の祈念に追従するようにシステム通知音が3度鳴り響く。
ほどなくして、目の前に広げていた2つのスキルテーブルのウィンドウは、次の通りに表示を変化させていたのだった。
たっぷり40分、俺自身の"ビルド"考察を再確認していた。
これで間違いはないか。これで色々なことに対応ができるかどうか。万が一、失敗していた時に、挽回はできるであろうか、等々。
そんな風に、俺が自分自身の目的と現状、そして方針を反芻している間に、待ちわびていた「30時間」がついに過ぎようとしていた。
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