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3
「僕は神谷悠介、君の夫です」
まずは、自己紹介をする。
はにかんだ妻の幽霊の青白い頬が仄かに色付く。
思わず、妻に始めて出会った時のことを思い出して、涙が零れそうになる。
あの時の妻も今のようにはにかんで頬を染めた。
だけど、今は……
妻の幽霊は眼の前にいるけれど、生きている妻はもういない。
「僕のこと、本当に覚えていないの?」
ベッドサイドのローテーブルに置いてあった写真立ての中の、二人が映っている写真を見せる。
縋る様な気持ちで聞いてみたけど、妻の幽霊は申し訳なさそうに、首を小さく横に振った。
「君の名前は?」
気を取り直して、次の質問をする。
「神谷絵里」
自分の名前は覚えているようだった。
その後も、いくつかの質問を妻の幽霊に投げかけ、覚えている事と、覚えていない事を確認していった。
その結果、自分の事や一般常識などは覚えているのだけど、僕や友人など家族以外で関わりがあった人の記憶がすっぽりと抜け落ちていることが分かった。
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