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「誰?」
絵里がすかさず聞いてくる。
「元カノ」
僕は彼女に怪しまれないように手短かに絵里に伝えた。
「奥さんの事聞いたよ。残念だったな」
杏奈が、もとい、髙瀬さんが僕に近付いてお悔やみの言葉を述べる。
「ありがとう」
まさか、横にいるよ、と伝える訳にもいかず、とりあえず礼を言う。
絵里を見ると、幾らか固い表情で髙瀬さんを
じっと見つめていた。
「思ったより元気そうでよかったよ」
髙瀬さんは、そう言うと、続けて、
「で何?奥さんとの思い出巡り?」
とズバリ正解を言い当ててしまう。相変わらず頭が切れる。
「すごーい」
絵里が横で目を丸くして感嘆の声を上げる。
「まあ、そんなところ」
嘘をつくことでもないので正直に伝えた。
「髙瀬さんは?ここの職員?」
僕が尋ねると、
「こそばゆいな。昔みたいに杏奈でいいぞ」
と言ってから、
「研究員をやっている」
とぶっきらぼうに答えた。
絵里がすごい顔で僕を睨むので、
「髙瀬はすごいな」
間を取って髙瀬にした。
髙瀬は、ふん、と鼻で笑うと、
「何か聞きたい事があったら、いつでもここに連絡しろ」
そう言って自分の名刺を僕に手渡した。
「ありがとう」
僕が礼を言うと、
「ごゆっくり」
と言って振り返ると、右手を軽く挙げてから立ち去って行った。
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