愛玩

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   高級バターをふんだんに使ったお菓子ブランドの紙袋の中には、姉の手料理がみっちりと入った、大サイズのタッパーが3つ。 機密性の高いタッパーだが、万が一も中身が漏れ出したら嫌なので、傾かないように気をつけて歩く。 この量だと、父と母が1食ずつ食べてもまだ余ってしまうだろう。サンドイッチに挟む事にも向いていなそうだし。 明日の夜もこれを食べるのか。中華料理は嫌いじゃないが、毎食続けて食べるものではない。 持っている手に食い込むほどの重さに、私はうんざりとしてしまう。このまま道に置いて帰ってしまおうか。 姉の家から帰る度にそう頭に過ぎる。まだ、一度も置いて帰ったことはないけれど。  紙袋を右手から左手に持ち替えた。重みによって圧迫されていた血が一気に流れ出し、手がじんわりと痺れる。 その手でポケットからスマートフォンを取り出すと、2件の新着通知が届いていた。  1件目は、姉だろう。姉は私が家を出てすぐ、いつもご丁寧にお礼のメッセージを送ってくれるから。 きっと今日も、絵文字でデコレーションされた「きてくれて、ありがとう」というメッセージが届いているはずだ。いつものように、SNSにあげる予定の写真を貼り付けて。  2件目は、メッセージではなく電話の着信だった。私は表示された名前をタップして、スマートフォンを自分の耳に押し付ける。 「…もしもし、かすみちゃん?ごめん、忙しかった?。」 私からの折り返しを待っていたかのように、1回目のコールがなり終える前に、低く優しい声が、私の名前を呼ぶ。 「百合ちゃんに呼ばれたの。今日は、中華だったよ。」 「あぁ…そうなんだ。タイミング悪かったな。」 「ううん。もう帰ってる所だから。」  気がつくと、家はもうすぐそこだ。私は立ち止まり、歯切れ悪そうに「そうなんだ。」と呟くその声に耳を傾ける。丁度昨日、会ったばかりの陽太さんの声に。 私は込み上げてくる笑いを抑えることが出来ず、さっきの姉のようにんふふ。と笑った。 「昨日会ったばかりなのに、どうしたの?。」 「いや…なんか、かすみちゃんの声が聞きたくなって。」 このことを、もちろん姉は知らない。姉の新しいペットの事も陽太さんに教える気はないし、陽太さんは私に、姉とセックスレスだということを、伝えてくることはやはりないだろう。 私は、私のやり方でおもちゃを大切に扱っているのだ。
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