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本編
「フェイクニュース、辞めたいんだけど……」
ぐったりとソファで横たわる私の呟きに、飼い猫は爪を研ぐのを止めず、蒼太は無言で聞いていた。夜が更けて藍色のカーテンの隙間から月の淡い光が入り込んでいる。ライブ配信中は自室に篭っているので、時間の流れが曖昧になる気がする。
「どうして辞めたいの?」
「……なんか嘘考えるの、しんどくなってきてさ」
私は二年前からネット声優として活動を始めた。在宅でも出来る副業のつもりで始めたのだが、どうやら私の声がウケたらしく一定数のファンがつく様になっていた。
そして半年前、活動領域を更に広げようと配信プラットフォームでも活動を始めた。最初はシチュエーションボイス等が主な内容だったが、蒼太の助言で始めたニュース風に有り得ない嘘をつく「中吉あかりのフェイクニュース」がプチバズりし、今ではライブ配信すれば毎回三千人以上が訪れる人気コンテンツになっていた。
「毎回違う内容考えるのも億劫だし、ネガティブ成分が絶賛分泌中なんだよ」
「そうなの? くーちゃんのニュース面白いけどなあ。僕も一緒に考えようか?」
蒼太はパソコンのキーボードを打つ手を止めて、椅子から立ち上がった。その場で軽く背伸びをすると、蒼太は歩き出した。
「何か飲む?」
「ニルギリ飲みたいー」
「うむ、了解」
キッチンからガサゴソと音が聞こえる。最近通販で買ったティーバッグを探しているのだろう。私は空気を吸う人間除湿機になって蒼太の帰還を待つ。スーハーと息を吸って、吐く。
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