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◇
「……ファイト」
路地裏に隠れてエールを送った。
左手薬指のリングに手を添えて肩を震わせていたアコさんは、やがてグイッと顔を上げて一歩を踏み出していく。
シュンタさん。
確かに、見届けました。
きっと大丈夫。
しばらくは、涙が出る日もあるだろうけど。
私は、鞄の中に腕を突っ込んだ。
今日もまた、畳敷きの不思議な空間に降り立つ。
「紗那ちゃーん」
閻魔さまがポンと湧いて出た。
相変わらず、どこからでも現れる。
「色々あったみたいだけど大丈夫?
もう来てくれないかと思ってたよ~」
私の手を取る閻魔さま。
つくづく上司に恵まれたなあ。
「これからも頑張ります。
まだ、篁さまのように冷静ではいられないかもしれないけど」
「あいつが冷静か……。
どうかな。ヤツも所詮は元人間だからね」
普段はチャラい閻魔さまが、ふと真顔になる。
「あれっ?」と思ったんだけど。
瞬きしたらもう、いつもの閻魔さまに戻っていた。
中央の席に向かって呼びかける。
「おーい、篁!
紗那ちゃん来てくれたぞー」
「フン」
「愛想ないなー」
さあ、仕事だ。
「うむ。大往生であるな」
今日も、篁が羽扇を振る。
「この後のご説明は私が引き受けます。
何か、心残りはございませんか?」
《了》
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