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こんな感じで現在に至ります。
私が冥界に就職するまでの経緯は、まあざっとこんなところだ。
「大往生である」
小野篁が、おじいさんの前で真っ白な羽扇を翻した。
三国志で孔明が持ってるみたいなやつ。
篁が羽扇を振ると、皆一様に安堵の表情になる。
おじいさんも目尻を下げ、納得したように何度も頷いた。
この後は、私が冥界での過ごし方を説明する流れになっている。
どうしても遺族に伝えたいことがあれば、初七日までは夢枕に立つこともできる。
空間の所々に、電話ボックスに似たブースが設置されているのだ。
慣れれば何とかなる仕事だが、納得いかないこともある。
篁がまったく動かない。
閻魔さまによれば、以前は篁が迷っている人のところへ直接出向いて羽扇を振っていたという。
今は私がいるのをいいことに、中央の席でふんぞり返っている。
中央まで、いちいち迷い人をお連れしなければならない。
おまけに時間も分からない。
冥界では疲労や空腹などを感じないため、次から次へと舞い込む仕事に対応しているうちにとんでもなく時間が経過しているのだ。
初出勤から帰宅した時には丸2日が経っており、家族からは「どんなブラック企業なのか」と本気で心配された。
最近ようやく感覚が掴めて定時で帰れるようになったが、たまに勘が外れて深夜帰宅になると本当にヘコむ。
篁は、部下の勤務時間にまったく気をつかってくれない。
自分だって昔は俗世人だったくせに!
おじいさんへの説明が終わった。
死が確定したら待機期間を経て、初七日に秦広王という人から殺生についての裁きを受ける。
三途の川を渡り、それ以降も7日ごとにいろんな人から裁きを受けますよ。
私が説明するのは大体こんなところだ。
おじいさんが畳に座ってくつろぎ出すと暇になった。
帰っちゃおうかな。
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