ちなみに、私は死んでません。

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ちなみに、私は死んでません。

 ちなみに、私は死んでない。  死んでないのに、なぜか俗世と冥界を行き来できるのだ。  俗世とは「この世」、つまり私たちが生きている世界である。  対する冥界は死者が行き着くところ。  その全容は謎に包まれている──。  俗世と冥界を行き来するという特殊能力に目覚めたのは、つい先日のこと。  私は就活中だった。  ◇  その事故は突然に起こった。  記念すべき100通目の“お祈りメール”に目を落としていた時である。  【緑川 紗那(さな)様  この度は……  厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが今回は採用を見送らせて頂くこととなり……】  ああ、何というテンプレ感。  丁寧な文面から伝わる冷たさ。  【緑川様の今後のご活躍を……】  あーあ。  最後まで目を通すことなく顔を上げると。  トラックが眼前に迫っていた。  エンジン音と派手なクラクションが耳を突いた瞬間、何も見えなくなった。  真っ暗闇に音だけが聞こえる。  「誰か救急車を!」  人の声。  間もなく聞こえる救急車のサイレン。  バタバタとした足音。  あ……お母さん?  何か叫んでる。  私、死ぬのかな──。  どこも痛くないし。  まだ22歳なんだけど。  私、ホントにお祈りされるような存在になっちゃうわけ?  イヤよ、まだ終わりたくない……!  彼氏だってほしいし!  無理やり目をこじ開けると、白い天井が見えた。  「生き……てる」  掠れた声が漏れる。  「お母さん」  顔を左に向ければ、母がベッドに突っ伏して眠っていた。  事故の連絡を受け、ずっと付き添ってくれていたのだろう。  母の後ろでは姉が項垂(うなだ)れ、やはり眠っている。  心配、かけちゃったなぁ。  ナースコールをしようと母たちから視線をずらすと。  白い天井があるはずの場所に、人の顔があった。
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