ちなみに、私は死んでません。

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 医者……ではなさそう。  だってその人物は。    金色の獅子が織り込まれた深紅の着物を着流し、房のついた帯をダラリと垂らしている。  高く結い上げた長い黒髪、透き通るように白い肌。  女性と見紛うような中性的な面立ちで、目だけは雄々しげな光を放つ。  「あのぉ、ビジュアル系バンドの方ですか?」  「その方、何をほざいておる」  即座に冷たい言葉が返ってきた。  ……そういう売り出し方なの?    でも、衣装のまま飛んで私を見舞いにくるようなバンドマンに心当たりなんてない。  「えーと、どちら様で?」  「我を知らぬは恥であるぞ」  その人物はほとんど表情を変えず、発する言葉は冷たい。  だけど。すっごい綺麗……。  事故後で頭がハッキリしないこともあり、私はぼんやりとその人物に見惚れた。  ビジュアル系は、とても不快そうに舌を打つ。  「我が名は小野篁(おののたかむら)。  その方、暇か?」  なんなの、その苗字みたいな名前──。  ともかく。  これが、美しすぎる上司・小野篁との出会いだった。
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