30人が本棚に入れています
本棚に追加
「痛ったぁ……」
頭を押さえつつ起き上がる。
この痛覚が、今いる場所が俗世であるということを明確に物語っていた。
「何よ、ここ! めっちゃ山ん中じゃない!」
ビジネススーツにパンプスだっていうのに。
身体についた小枝や落ち葉を払いつつ、大切な鞄を拾い上げる。
前方に黒煙が見えた。
「!!」
進んでみると、黒のSUVが横転して黒煙を吐いている。
上を見上げると、ガードレールが突き破られていた。
事故だ。
カーブを曲がりきれなかったのか。
「嘘……」
寂しい山道。
通りかかる車はない。
「大丈夫ですか!?」
駆け寄って叫ぶ。
横向きになったフロントガラス越しに、あの金髪の男の人が見えた。
頭から血を流し、ぐったりとして動かない。
隣で誰かが身じろぎした。
「あッ!」
栗色の髪、ポニーテール。
白いワンピース。
さっき冥界に来た女の人──!!
「シュンちゃん!? イヤ! しっかりして!!」
隣の男の人に必死で呼びかけてる。
事故のせいで気を失ってたんだ。
篁に「帰れ」と言われて、意識が戻ったのだろう。
女の人は、冥界に来た時「シュンちゃん、どこ?」と言っていた。
つまり、金髪の男性が“シュンちゃん”。
そして、この女の人は”アコ”さんってことだ。
この2人、繋がってた──。
「大丈夫ですか!? 今、救急車を──!」
必死で呼びかける。
何としても助けなきゃ。
この女の人……アコさんのためにも。
最初のコメントを投稿しよう!