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まだまだ未熟でした。
そうだ。私、確かに言った。
この人に「大丈夫だから」って。
──阿呆が。
篁が言ってた意味がやっと分かった。
私が現地へ飛んだところで、運命は変わらないんだ。
知らなかった。
安請け合いをしたつもりはなかった。
……言い訳だ。
私は怖かった。
生命力に溢れ、ひたすら真っ直ぐに誰かを愛する若者。
そんな彼の、死の宣告に立ち合うことが。
「俺はまだ、こんなとこに来るわけにいかねえ!
アコと一緒になるんだよ!」
俗世では流れなかった涙が頬を伝った。
痛みを感じないはずの冥界なのに、ものすごく胸が痛い。
「どうしてくれんだ!!」
シュンタさんが拳を振り上げる。
「その辺にしておけ」
いつの間にか、シュンタさんと私の間に篁が立っていた。
大きな背中を見上げる。
どうして庇うの?
そのまま殴られた方がマシだった。
阿呆って言われた方が。
「そなたの運命と、この者は関係ない」
「なにがサダメだ! そんなもん認めてたまるか!」
シュンタさんが、振り上げた拳で篁に殴りかかる。
篁は、それを軽く受け止めた。
「このままでは悪霊化する」
篁の手の中で、シュンタさんの拳は力を失っていく。
「クソッ! どうすりゃいいんだよ、分かんねえよ……!」
シュンタさんは篁の足元に泣き崩れた。
「そなたも聞いておけ」
篁が身体の向きを反転させる。
涼しい横顔はいつもと変わらない。
「冥界には、万に一つも間違いはない。
これは運命である」
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