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篁は、肩を震わせて嗚咽を漏らすシュンタさんの傍らに跪いた。
「せめて、そなたらしくあれ」
分からないといった表情のシュンタさんに向かって、篁は続ける。
「永久に見えること叶わずとも、俗世に残る者が知るそなたのままであれ」
「アコが知ってる……俺……?」
シュンタさんは、涙に濡れたままの顔を上げた。
「そなたの心残りは何だ?」
「アコの……幸せだけだよ」
篁は大きく頷いた。
そして、羽扇で私を指し示す。
「この者、見ての通りの阿呆であるが……冥界と俗世を行き来できる。
そなたの願いを聞き、不安を消してくれようぞ」
戸惑っているシュンタさんに向かって、私はしっかりと頷いてみせる。
もう、目は背けない。
「心は決まったか」
静かに問う篁に、シュンタさんは「はい」と応じた。
篁がゆっくりと羽扇を翳す。
シュンタさんが大きく一つ、深呼吸する。
「よう励んだな」
篁の声音が、少し柔らかくなったような気がした。
シュンタさんが目を閉じる。
目の前が滲むけど。
しっかり見届けるんだ。
冥界の案内人として。
「大往生であるぞ」
篁が羽扇を振った──。
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