0人が本棚に入れています
本棚に追加
ハイヒール誕生秘話
わたしは地面へかかとをつけてしゃがむことができない。世にいうウンチングスタイルができない。地面へかかとをつけたまましゃがもうとすると、後ろへひっくり返ってしまう。
だからわたしは和式トイレが苦手だ。よほどのことがなければ、和式トイレを利用しない。
しかし年に何度か、外出時に和式トイレの利用を避けられない状況に陥ることがある。そんなときわたしは、ウンチングスタイルではなくて、爪先立ちでしゃがむ姿勢、いわゆるそんきょの姿勢で用を足す。
わたしは普段から足腰を鍛えているわけではない。和式トイレでそんきょの姿勢をとると、まもなく足の裏の中指と薬指の付け根の部分がむずむずとしびれてくる。わたしはぷるぷるしながら用を足す。
手すりなどがあるときはまだよいが、ないときのわたしのぷるぷるは尋常ではない。
わたしは後ろへひっくり返らないよう必死に持ちこたえる。想像してほしい。万が一後ろへひっくり返ったら、どんなことになるのか。
しかし出すものは出す必要はあるから、力んで肛○をキュッと閉めるわけにはいかない。○門は常に全開にしておく必要がある。
そんな八方ふさがりの状況の中で、便器のど真ん中へ投下しなくてはならない。外角すぎても内角すぎても便器の左右が汚れる。低すぎると便器の後ろが汚れる。高すぎるとズボンが汚れる。
しかし最大の難関は、出すときではない。拭くときだ。和式トイレには、洗浄便座機能はついていない。トイレットペーパーだけで完結する必要がある。
そんきょの姿勢でぷるぷる用を足し終わったころには、わたしの足は限界を超えている。その姿勢のまま拭くのはあまりにも危険だ。
やむなくわたしは立ち上がる。立った状態で拭く。ただし、拭きにくい。立ち上がるとお尻が閉じるからだ。
ズボンとパンツを足首までおろしてしまいたいが、おろしたズボンが便器や床についてしまう危険性がある。わたしにはそんなことをする勇気はない。
そこでわたしは大体膝のあたりまでズボンとパンツをおろす。それ以上ずり落ちないよう、両膝の外側でズボンとパンツのウエスト部分を左右に押し広げて、強く突っ張る。突っ張りながら拭く。
その和式トイレが臭くて汚い真夏の野外トイレだったりすると最悪だ。ほんのわずかなミスも許されない。
わたしは人間としての尊厳を捨て去る。全身全霊でぷるぷるしながら用を足す。ズボンを突っ張りながら拭き終わったころには、バケツの水を被ったように汗だくになっている。
地面にかかとをつけてしゃがむことができず、和式トイレで苦労する人はわたしだけではないだろう。
ただしわたしのような人たちでも、ある方法を使えば、即席でウンチングスタイルができるようになる。その方法とは、かかとをのせる場所を地面よりも高くすることだ。
要はハイヒールを履くイメージである。
とはいえ常にハイヒールを履いて出歩くわけにもいかない。特に男は。
ウンチングスタイルができない人のために、和式トイレにはレンガを二枚常備するべきだとわたしは思う。便器の両脇にレンガを置き、かかとをそのレンガにのせれば、ちゃんとしゃがめるからだ。
しかも最近は、消臭効果のあるレンガもあるという。そういうレンガを使えばまさに一石二鳥ではないか。
ハイヒールの起源は定かではないが、汚物でスカートのすそを汚さない靴として誕生したという説が有力だ。
中世ヨーロッパでは街中に汚物が捨てられていた。普通の靴で歩いていると、汚物でスカートのすそが汚れてしまう。そこで誕生したのがハイヒールだという。
しかしこの説は説得力にかける。それなら、スカートを短くすればよいではないか。
わたしはこう考える。
中世ヨーロッパでは、まだ椅子式のトイレは普及していなかった。椅子式のトイレを持っているのは皇族くらいだった。
人々は地面に掘った穴の上やおまるにしゃがみこんで用を足していた。
ウンチングスタイルができない人は、アジアより欧米の方が多いらしい。当時も大勢いただろう。皆そんきょの姿勢で用を足すほかなかったに違いない。
そこで人々はかかとが高くてしゃがみやすい靴を生み出した。
それがハイヒールである。ハイヒールは、ウンチングスタイル補助靴として誕生したのではないだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!