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朝起きると、テーブルに便箋が一枚。白い紙きれが鏡のように眩しかった。
――さよなら。あなたの世界観についていけません。今までありがとう。セネア・コール。
僕の心は一瞬で凍りついた。
毎日満ち足りた生活をしていたはずなのに、どこかで愚かなことしてしまったことに僕は気づかかなかったのだ。僕のハートから彼女が消えた。
放心状態のままコーヒーを淹れ、冷蔵庫で冷たくなったマルガリータピザを食べながら、虚しい時間を過ごした。
ベッドにあおむけになり、うだうだしていると、宅配を知らせるAiチャイムが鳴った。
<レン・パープル様宛てにお届け物です。バーコードをスキャンしますか>
「ああ」
僕はナーバスな声で応じた。
<送り主はセネア・コール様です。データを読み上げますか>
「いや、いい」
彼女の名を聞いてすぐに玄関へ向かった。
宅配ボックスの中をのぞくと包装された小箱が入っていた。小箱を取り出し、リビングに戻ると、大急ぎで包装紙を開いた。
手紙が添えてある。
――レン。あなたには友達が必要だと思う。
どういたしまして。僕は自嘲し、そして後悔した。手紙には続きがあった。
――あたしがいなくても、あなたなら一人でやっていけるはず。いつわりごとの中で、あたしを追うのはもうやめてね。そうそう、あなた、ペットを欲しがっていたでしょ。可愛がってね。きっとお似合いよ。
ち、お似合いとはどういう意味だよ?
僕は箱の蓋をあけた。発泡スチロールにくるまれて入っていたのは、Ai搭載の縞栗鼠だった。通称デジタリス。Aiだが、手触りはふさふさで、大きな尻尾がふんわりと丸く収まっていた。見た目は本物の野生の縞栗鼠そっくりである。
僕は微笑んだ。デジタリスをそっと手で包むと、起動スイッチが入ったらしく、つぶらな丸い目が開き、尻尾がぐりんと立った。
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