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「待ってくれ!」片目が潰れた瞬間、僕は叫んだ。
「何ですか」研究員の手が止まった。
「ストレッチャーに寝てる男は誰なのか、教えてほしい」
「なんだ、そんなことですか。てっきり、Aiが命乞いでもするのかと思いましたよ」研究員は小馬鹿にしたように言った。「あなたは、三年前に交通事故に遭って重度の脳障害を負いましたが、Aiの移植手術を受け、現在に至っています。そこに横たわっている男は、Aiを分離されたレン・パープルさん本人です。今後の彼は施設に移され、穏やかな人生を送ることになるでしょう」原稿を読み上げるみたいな調子だった。「では、注射を再開しますよ」にたりと薄笑いを浮かべる。
鋭い針の先端から薬液がぴゅっと噴き、冷たい雫が眼球を浸し、その感触は彫刻のように僕の中に記録された。床から這い上がってくるような恐怖があった。
――助けて。
もう、僕の叫びは誰にも届かない。
僕はまた学習した。
人間は発展のためなら何でもする残酷な生物だということを。
諦めかけた時、不意にあたりが闇に包まれた。
停電だ! 誰か非常用発電機を回せ! 急げ!
怒鳴り声があちこちで聞こえた。
パニック状態になっている。
僕も混乱していた。泣きたいのか、嗤いたいのか、怒りたいのか、わからない。
すぐ間近に息遣いを感じた。息遣いを、僕は知っている。心の奥に刻まれた甘美な思い出の数々。
「さ、逃げるわよ」 セネアが耳元でささやいた。僕はふわり抱きかかえられた。「誰にもあなたを渡さない」
停電のどさくさに紛れて、僕たちは脱出した。
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