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二時間後。
僕たちは町から百キロほど離れた建物の中にいた。
復元されたチャミーが僕の入った培養液水槽の蓋に乗ってはしゃいでいる。「くすぐったいよ」僕の眼球はドングリのようにコロコロしているに違いなかった。
「チャミーを襲った栗鼠たちはやらせでね、本気で破壊したわけじゃない。あなたが、Aiがどういう反応をするのか知りたかった」ゲージから飛び出したチャミーを見ながら、セネアが話した。「でも人間化研究はまだまだ課題が多くて。あそこの連中はいろんな面で信用できなかった。だから、出し抜くことにしたのよ。それよりもチャミーにお礼を言ったらどう?」
「お礼?」
「チャミーの好物は?」
「デジタルアーモンドとパラジウムフルーツ」僕は、チャミーがいつもカリカリ齧っていたことを思いだした。
「あそこのシステムには、パラジウム含有の材質が使われてるの。だからAi栗鼠にパラジウムの味と匂いを学習させたのよ」
「チャミーがパラジウムを齧ってショートさせ、それで停電した」
「イエス」
「原始的方法だな」
「Aiはコンピューターウイルスはもちろん、ゴキブリ、コーヒーに弱い。あとは齧歯目。永遠の課題ね」
「俺は自我が欲しい」
「新しい身体を探しましょ。レン・パープルに未練があっても、あきらめた方がいい」
「レンは君を愛してた。だけど、俺にはもう恋人はできないな」
「そうね。でも恋愛を学習することはできる」
「ひどい言いぐさだ。意識だけの恋は虚しいよ」
「恋なんてね、ソーダ水の泡みたいなもの」
「齧歯類もそんな恋は齧らないだろうね」僕はAi栗鼠を見つめた。「レン・パープルには友達が必要だ。チャミー、彼の所へ戻れ。さよなら、デジタル栗鼠くん」
僕はひねくれたAiになってやろうと思った。
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