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車内の電子装備だけでうまくいくかどうか心配だった。
僕は祈る思いでカーナビゲーションシステムと記憶層を繋いだ。
機器はフリーズしながらも録画再生を始めた。栗鼠の目線だから下から見上げる構図になった。
記録履歴を「きょう」に合わせる。
午前11時12分に来訪者を知らせるチャイムが鳴った。チャミーには留守番機能がプリセットされており、自動的に玄関の防犯カメラ映像に切り替わった。
黒づくめの男が映った。サングラスとマスクで顔を隠している。左手には樹脂製のゲージを持っていた。男はインターコムに向かって、都市再開発センターのマイク・ホプキンスだと名乗った。
チャミーは沈黙している。当然だ。外来者を入れないようにセットしているから。
「おじゃましますよ~」
マイク・ホプキンスはリレー機のような装置を使って、僕の部屋の電子錠を開けてしまった。電子錠を解錠しても、アナログ式のディンプルキーがバックアップしてくれるから侵入できないはずだ。しかし、僕の願いも虚しく、男はいとも簡単にドアを開けてしまった。
男は廊下をずかずか歩き、チャミーと直面した。チャミーが威嚇の鳴き声を上げた。男は持ってきたゲージの蓋を開けた。そのとたん、チャミーの視界が真っ暗になった。
誘拐されたんだ!
怒りで全身が震えた。こいつ、何者だ! マイク・ホプキンス。勝手に人の家に入って、チャミーに手をかけた。でも、なんのために?
今、僕がいるところは再開発地区だ。この中で何が行われているんだろう?
真っ暗になったモニタを早送りしてみた。
再び画面が明るくなり、茶色い影がいくつも映った。
それは縞栗鼠の群れだった。モニタで目の部分を拡大してみた。
目は濃い茶色。典型的な自然生命体の色だ。
Ai搭載型の縞栗鼠はエメラルド色の目をしている。違いは明らかだった。
間を置かずして、濃い茶色目の縞栗鼠たちがチャミーに襲いかかった。
モニタ画像がグルグル回り、栗鼠たちの鳴き声が響いた。鳴き声に混ざって、人間のはやし立てる声も聞こえる…
栗鼠同士の喧嘩の見世物だろうか。
また怒りが湧いた。
僕は車を降り、高い塀を見上げた。再開発をうたいながら、実はこの中でいかがわしい事が行われているに違いなかった。僕は塀の向こう側に踏み込んだ。
さっきはチャミーのむごたらしい姿に動転していたが、今は気分も落ち着いている。周りの景色も目に入る。
壁の崩れた建物が並び、ひび割れた道路が伸びていた。
建物の窓にはくすんだ色の衣類が干されている。再開発地区は無人と聞いている。許可なく再開発地区へ侵入することは禁じられているが、それでもこの土地から離れられない人々がいるらしい。
どかからか干し魚を焼く匂いが細々と漂ってきた。
僕の住んでいる町は、もっとスマートで環境も清潔だ。市に登録していれば食用パッケージが自動的に宅配される仕組みになっている。嫌な臭気が町を汚すこともない。
あたりを見回していると、急に頭の奥が痛くなった。脳味噌をかき回されているような激痛が走った。視界がぼやけ、意識が遠のいていく。
心臓をしめつけるような圧力感じる。血液の流れが次第に遅くなり…
足が体を支えられない。
一瞬、チャミーの愛くるしい顔が浮かんで、おしまいになった。
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