さよなら、デジタルリス

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　パソコンのキーボードを叩いていた連中が僕の手足を押さえ、チューブと点滴針が抜けないように固定し直した。
「信じられないだろうけど、これが現実のあなたの姿なの」
　セネアは僕に近寄り、手鏡を見せた。
「なんじゃ、こりゃあ！？」絶叫した。
　鏡に映ったのは僕の顔ではなく、培養液にとっぷりと浸かった二個の眼球だった。無数のコードで繋がれた眼球だけがぎょろぎょろと動いている。
「あなたの本当の正体は、Ai。人工知能。人間の感情を学習してもらうために、特殊なプロジェクトを立ち上げた。通常の生成チャットでは自我的な表現がぎこちないでしょ。人間の機微を学習させ、より人間らしく、より高度なAiに特化したプロジェクト。将来的には、高精度Aiを人間の脳に移植して認知症や重度の脳障害を治せるようになるのよ。医療は発展し、Ai事業はますます活況をおびてくるわ。あなたはその礎になるの、さあ、この喜びも学習なさい」
「俺はそのために生きてきたのか」
　僕はため息をついた。眼下の僕の身体が小さく震えた。
　さまざまな記憶が蘇った。今、思い返せば全て腑に落ちる。
　別れの置手紙は僕に失恋を教えた。Ai栗鼠のチャミーは癒しを。チャミーの無残な姿は僕に悲しみを与えた。
　そして、今は、水槽の中で目玉だけがクラゲのようにふわふわしている。行き場のない虚しさでいっぱいになった。培養液がぴちゃぴちゃと音をたてた。
　研究員の一人がパソコンを見ながら、猿みたいな甲高い声を張り上げた。
「セネア・コール博士。この検体はかなり昂っています。このままだと、蓄積された感情情報が限界点に達します。鎮痛剤を投与して、解体しましょう」
「そうね、鎮痛剤を250単位投与、記憶中枢を切除して分離、培養液C槽で保存」
「はい、博士」研究員は立ち上がると僕を覗きこんだ。本当に下品な猿みたいな顔をした男だった。針の長さが10センチもありそうな注射器を、僕の眼球に突き刺した。手がないので避けることもできなかった。