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「家族、寝てるから静かにね」
タクシーを降り、
目の前の戸建の門を開けた川瀬は、
僕を手招きし、中へ案内してくれた。
僕の狭い自宅マンションとは違う、
広々とした2階建て。
玄関すぐの階段を登り、
いちばん奥の部屋が川瀬の部屋だった。
「部屋着、貸すね」
そう言って川瀬は
クローゼットの引き戸を開き、
衣裳ケースからスウェットの上下を出した。
「はい‥‥あれ。岸野くん、どうしたの?」
「あ、いや、何でもない」
カバンを床に置き、
片手でスウェットを受け取ると
着ていたグリーンのパーカーのチャックを
開けた。
隣で川瀬もスウェットに着替え始めている。
それだけなら何でもないことだが、
僕の視線は川瀬の部屋の隅のあるものに
移っていた。
(シングルベッド、だよな)
そう。
数分後には川瀬と密着して横になるであろう
その場所が、第二ラウンドの幕開けに
見えて仕方なかったのだ。
「岸野くん、おいで」
先にスウェットに着替えた川瀬が
ベッドに上がり、棒立ちの僕を手招きした。
今日の一限の講義、落とせないんだけど。
動揺を隠し、ゆっくりとベッドに近づいた。
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