消えた夏休み

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 気分はすこぶる重い。  あたしはいったいどんな顔をして学校に行けばいいのか。  夏休みが消えたので宿題ができませんでした――なんて、信じてもらえるわけがない。  あたしだってまだ信じられないんだもの。  それでも確かに夏休みは消えてしまったし、宿題は何一つできていない。 「はあああ……」  深くため息をつき、やけに重く感じるランドセルを背負い直して通学路を歩く。  学校へは歩いて十分もかからない。  だらだら歩いているうちに校舎が見え、同じ制服の人影が同じ方向へ歩いていくのが見えた。  何度目かのため息とともに校門をくぐり、ゲタ箱でクツをはきかえて教室へ向かう。  途中で何人かに声をかけられた気がするけれど、きちんと答えられたかどうかは分からない。  提出の時間がゆううつすぎてそれどころじゃないのだ。  重い足を持ち上げて階段を上がり、いやに短く感じる廊下を進む。  もうすぐ教室についてしまう。 (帰りたい……)  帰ったところでお母さんに叱られながら、泣いて夏休みの問題集を片付けることしかできないけれど、このままジゴクを見るよりはマシな気がする。  それでも今さら帰ることは許されず、目の前の引き戸(ジゴクのトビラ)は開かれた。  後からやってきたクラスメイトに流されるように教室に入り、自分の席につく。  緊張と恐怖でお腹が痛い。  周りからはどこへ行ったとか、何をしたとか、楽しい思い出話ばかりが聞こえてくる。  本当なら、あたしもその会話に混ざっていたはずなのに……  小さくため息をこぼし、視線を机に落とす。  今はどこを見ても苦しいだけだ。  泣き出してしまわないように奥歯をかみしめ、止めそうになる呼吸を意識してゆっくりくり返す。  やがて鳴り始めた朝のチャイムに覚悟を決め、そっと顔を上げた。  いつの間にか来ていた先生が教壇に立ち、満面の笑みで言う。 「みなさん、おはようございます。夏休みはどうでしたか?」  ――さあ、ジゴクの始まりだ。  
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