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チャイムが鳴る。
あれから2日が経った。
来た! と菜摘は飛び上がるようにソファから立ち上がった。
宅急便が来る予定や来客の予定はない。
来客の予定があるとしたら、皐月。
インターホンのモニターを覗くと胸が締め付けられた。
皐月だった。
なにも言わずにオートロックの開錠ボタンを押した。
しばらくしてドアホンが鳴る。
ドアの前で待ち構えていた菜摘はすぐにドアを開けた。
そこに居たのは大きなバックパックを背負った皐月そのもので、丸々変わらない皐月がスーツを着ていないだけだった。
要するに変わらなすぎた。
「ただいま、菜摘」
昨日旅立ったような具合で皐月がそう言うから、2年間に空いた距離を忘れそうだった。
文句を言いたいのに言葉が出ない。
胸の内から出ていってくれなかった文句を言いたいのに。
「寂しい思いさせてごめん。ただいま」
「バカ……どっかで死んじゃったかと思った」
「ごめん」
「ハガキくらい出しなさいよ」
「住所聞いておくの忘れて」
「電話だってあるじゃない」
「メモるの忘れて」
「わたしのことも忘れていたんじゃないの?」
と、皐月が悲しそうな顔をした。
「会いたかった。本当に」
「じゃあなんで!」
菜摘が声を荒げた。涙の滲んだ声だった。
皐月の長い腕が伸びてきて抱き寄せられた。
汗臭いシャツと皐月の匂い。ずっと待っていた。胸の内から出ていってくれないのは待っていたからだと気付く。
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