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雨上がりに見た虹があんまりにも綺麗であなたに会いたくなりました。
何気なく手帳に書いたけれども、ボールペンですぐにぐるぐる消した。
だからなんだって話だ、と思うのだ。相手からしてみたら。わたしはもう用のない人間なのだから。
菜摘は今年で30になる。彼氏はいない。というよりも、彼氏は海外に旅に出たまま音沙汰ない。2年が経つ。自然消滅というやつでいいのだろうと思っている。忘れられないから次に進めないでいた。菜摘にとってはまだ胸中を占める人。けれども戻ってくると信じられるほど若くはない。
仕事帰りのカフェでなんとなく開いた手帳、今日がちょうど恋に落ちた日だった。なんでそんな細かいことを覚えているのだろうと自分でも呆れる。
一緒に出た外回りの帰り道、通り雨に遭遇した。喫茶店に走り込んで、雨をしのぐ間にいろんな話をした。
その時、いつか仕事を辞めて海外を旅したいんだと言っていた。
だから最初からやめておけばよかったのだ。彼が必要としているのはわたしではなかったのだろうから、と今は思う。
雨上がり、さあっと晴れた。
喫茶店を出て会社に戻る途中、虹が見えた。写真に撮りたくてスマホを構えたら、笑われた。
「女子ってなんでも撮りたがるよね。津田ちゃんも女の子ってことだね」
そう言って何故か頭を撫でられた。
前からいいなと思っていた同僚だったから、恋に落ちるのは一瞬だった。
村田皐月。
小柄の菜摘が見上げないと顔が見えにくいくらいに背が高い。深い作りの顔はきっと海外に行っても日本人だと言わなければわからないと思う。
そのうち結婚しようねって言っていたのに。きっとどこかの国の誰かといい仲になってどこかの国に住んでいるのだ。
菜摘はそう思うことにしている。
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