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三角関係、開始です。
あ。虹だ。
「誰かピザ注文して、ピッツァー!」
「さすがにそれはやべーだろ」
「ね、もっと氷ちょうだい」
ガッコの屋上。
ビニールプールで、ゴーグルを着けて沈んでるやつに向けて水をかける。うわっとか言ってあわてて起き上がるから笑った。
清掃用の蛇口に長いホースをつなげて、先端を指でつぶせば飛距離は多少伸びる。
今日は5月なのにとても暑い。水遊び日和。
俺は剥き出しのアスファルトの温度を下げるべく水を撒く。
こういう細かい作業がね、後々の記憶に影響を与えて、次またやりたいと思えるかどうかが決まるのよ。
水が弓なりに弧を描く。
その向こうに、虹が見えたんだ。
「ねー、すいか食うやつ手えあげてー」
「33等分って、どやって切んだよ?」
すいかが丸ごと、洗面器で冷やされている。
どうやって持ち込んだかって? 親が青果市場のお偉いさんだという野沢のつてだ。
少し早いけど今年のすいかは出来が良いらしい。
かき氷器。シロップを取り揃えて。人気は全部がけのレインボー。あ、これも虹だ。
今日はいいことあるかも。俺、意外とロマンチスト。
スマホに小型スピーカーをつなげて、腹に響くリズミカルな重低音で踊ってる一群。手にしているのはコーラやレスカであって、アルコールではありません。
比較的おとなしいやつらも、でかい洗面器に裾をまくってすね毛晒した足を浸して、スマホでゲームに興じたりしゃべったりしている。
「宮代、たのしーぃ?」
ロリ巨乳が描かれた表紙を隠しもせずじっとりと読んでいる宮代は巨大で細目で無口。
だけどぼそりと一言おもしれーことを言う。それに、体格がいいやつって美声なの。
それに目をつけて俺が放送委員会にねじ込んだ。ねじ込んだっつっても、年度の中途加入を委員長と顧問に認めさせただけだけど。
宮代は今では週2でお昼の放送のDJをやってる。仮名だから正体はあんまり知られてないけど、校内に隠れファンの多い、密かな人気者だ。
黙って、俺を見もせず、美少女の陰からサムズアップした。
いいね。
携帯ガスコンロの鉄板の上には焼きそば。香ばしい匂いが漂ってくる。
今日はコレがあるから家からビーサン持って来たし、姉ちゃんが顔洗うとき使ってるヘアバンドみたいなやつで髪を後ろに流しておいた。俺のその髪は金に近い茶髪。
うちのガッコの服装規定はこのとおり、ないも同然。あるいは誰も守っちゃいない。
蛇口を締めようとして、やめる。
「久保田ぁ」
いちばんいっしょにいることが多いかもしんない、俺のツレ。ぶっといフランクフルトをくわえてる。
「あ?」
ホースの口を、サイドが刈り上げられたその柄の悪い面に向ける。
「ほれ、顔射っ」
「ちょおっ、」
悶えてる悶えてる。
あーこのクラス、まじ意味わかんね。
でも楽しい。
楽しくなけりゃ、楽しくなるようにすればオッケー。
このノリについて来ないクラスメイトもいる。それはそれでいい。でも教室に残っているやつらにもすいかは分ける。ありがとうとか言って受け取る。そいつらも気が向けば来るし、俺だって気が乗らないときは参加しない。それでいいじゃん。
担任の井田ちゃん(44歳男、既婚)が、お前らーって怒りに来て、みんなでお片付けするまでが一連の流れだ。
「センセも焼きそば食う?」
「職員室に持ってっとけ! 紅生姜つけてな!」
「はーい」
そろって、いいお返事をする。
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