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「いつもうちの先輩がお世話になってます。宇田さん」
「あなたの先輩? あぁ有望中途新人で僕の後輩の事でしょうか? 弊社の社員なのでお世話も何も、当然です。ボクチャンさん」
「俺の先輩が付けてくれた呼び名を覚えて貰えて光栄っす! うださん」
「あ、勝手に親しみ感じてつい、すみません。その代わり、僕の事も後輩が付けてくれた呼び名で呼んで下さって結構ですよ。『宇田さん』じゃなくて今は、『宇田チャン』って呼んでくれてます」
「俺以外に『チャン』付け?! クソッ。了解っす! うだチャンさん」
「残念ですが先程営業に出かけてしまったんですよ。日中はいつもいないかな? せっかく配達がてら会えたかもですのに」
「大丈夫っす! エントランスで会えました。エレベータ入れ違いで。タイミングばっちりでした。それに、一昨日も居酒屋で会えたんで! 偶然良く会えるんすよねー俺達」
偶然な訳ないだろ……やってること半分ストーカーだ! ボクチャン気質ある?
「一昨日? あぁ締めだったから、後輩とここで二人きりで残業してた日ですね。終わってご飯に誘われましたが、僕はまだ仕事に慣れない後輩の身体が心配で、ゆっくり休んでくださいと解放しました」
「へえそうだったんすかぁ。先輩に合ってない仕事なのかなー? でも疲れた心を、俺は楽しかった昔の職場トークで癒してあげたんで」
「チェッ!」
「キーッ!」
内容のない不毛なマウント合戦が暫く続いた後、不覚にもボクチャンのペンを借りて受領印のかわりにサインする事になった。こんな些細な借りも悔しい。ビジネスマンのくせに筆記具必帯してないんすか?って目で見られてるような気がする被害妄想。
「宇田、だけでいいっすよ。チャンは要らないっす」
「わかってまっす!」
「ありがとうございましたー!」
デカい荷物と引き換えに、やっとデカい図体が去っていった。
朝なのにもう帰りたいくらい、疲れた……あれ、ずっと来んの?
恐るべしなんちゃら男子。
いや、事務男子だって負けない!!
ーおしまいー
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