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「宇田君アルコールいける?」
「はい」
「とりあえず生2で」
「喜んで!」
誘われた時の僕と同じ返事をした店員が、元気よく請けた注文を通しに行った。
初めて来た店。飲みに誘ってくれた明日からの相棒が「久々だけど行きつけの店が近くにあるからそこにする?」と連れてきてくれた。
「明日からよろしくな」
「こちらこそ!」
乾杯したジョッキを持つ手の筋が走ってる逞しい腕に、ちょっと見惚れた。
「あーいつでも飲めるって良いなあ」と一口目の感嘆と共に吐き出した目の前の人の言葉が気になり、我に返った。腕から顔に視線を移すと、盗み見た記憶より爽やかで年齢より若々しい貌を認識して泡を飲む。
「今まで好きな時に飲めない仕事だったんですか?」
「そうだなあ。気を付けないといけないし、ま、自分でも自重してたから」
僕は脳内で前職噂のホストという文字にバツを付けた。もしかすると過去にやってたかもだけど、確実に直近ではない。
「宇田君いくつ?」
「25です」
「若! でもぼくちゃんより上か……」
「え?」
「いや、なんでもない」
ポクチャン? なんだって? 耳慣れない単語が。くそっ小声だから聞き取れなかった。
僕が聞き返す間もなく、急に明日から使用するだろう営業スマイル全開で、テンション高く会社の事をあれこれ質問攻めにしてきた。僕も分かる限りは全力で答える。
「いやー宇田君が相棒でよかったよー! 勢いで転職しちゃってちょっとは不安だったんだけどさあ。明日から楽しくなりそうだ」
「僕も嬉しいです」
会話がはずみ、とても楽しい。勢いで転職したんだ。ぽいな。嬉しいことを言って貰えて、僕も心から返事した。
「宇田君仕事出来そうだなあー。あっちの方は、どう?」
「『あっち』とは?」
「おんなのこ。若いんだし、宇田君ヒョロいけど今時でモテそうだし、イッテんの?」
「……あぁ、その『あっち』ですか」
浮かれていた僕は、一気にクールダウンして、ため息がバレない様にゲソ天をしがんだ。
そうだ。気になる転職おじさんだけど、噂調査で聞いたバツイチや風俗好きという話で、僕は期待を一切持たない事にしたんだった。
この人は多分、いや、絶対ノンケ。観賞用って決めてたのに。
近づけて、浮かれて、楽しすぎて、忘れてた……
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