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「なななんで、ボクチャン、ここに?」
仔羊化した明日からの相棒は、か細い声で若者に怯えながら問いかけてる。ていうかまた言った! ボクチャン? さっきの呟きこいつの事かよ!
振り向かず視界の端で確認すると、しっかりしてそうだけど確かに僕より若そうだ。
「あんたが俺に黙って辞めて姿消してから、俺は毎日ここで夕飯食ってんすよ! 居酒屋で独りで!」
「メェ……」
「絶対来ると思ってたのに、全然姿現さないし!
やっと来たと思ったら、俺との思い出の場所に新しい奴と」
『思い出の場所』って、ふつーの居酒屋だけど? ってヒートアップしてるぼくちゃんとやらに冷静に問いかけてみたくなったけど、”新しい奴”の僕に発言権はない。
店内見まわしてみたけど、平凡な居酒屋だ。ただ強いて言えば、さっきのド下ネタトークをしてても、今ぼくちゃんが熱弁奮っても、誰も気にしてない。スルースキルは満点評価だ。流石エロ後輩さん行きつけの店。そういえば今日『久々だけど』って言ってたな……
「とりあえず、ウーロン二杯!」
ガタン!と僕の隣の空いてる椅子を引き、ドスン!と腰掛け、注文した。え?
同席すんの?! 正面に座ってるエロ後輩に目で訴えかけたけど、視線を全く合わせてくれない。かといって隣と見つめ合ってる訳でもない。気まずそうな顔で、本日のお品書きを見だしてる。
ぼくちゃんと呼ばれる男は、すぐにやってきた二杯のウーロン茶の内一杯を秒で飲み干し、大きな息を吐いた。
盗み見た身体は、おじさんに負けてはいるものの、結構良い筋肉してる。前職同じなのかな? 聞きたいことは山ほどあるのに。この卓に僕の口を挟む隙間はない! ただ息を殺してなるべく存在を消すのに全力を捧げてる。
「酷いじゃないすか。突然消息絶って、音信不通って」
「いや、そりゃ仕方なくてさあ……」
「何がどう『仕方ない』んすか? こっちの身にもなってくださいよ! 尻に指ツッコまれた仲なのに急に居なくなったんすよ? 俺はあんたにケツも心も開いたのに!」
は?! 想像の斜め上ぶっちぎりのトンデモ話に息をひそめて飲んでたビール口から噴水しそうになった。『ケツも心も開いた』って上手いこと言うなって感心してる場合じゃない! どういうこと? 二人の話の道筋が僕には一切見えない。
「ちょっとボクチャン、その言い方は違う、治療な! あくまで」
「そうですよ。立派な治療でしたよ。前立腺マッサージ! 俺、お陰でちゃんと治りましたもん! 失恋して勃たなくなった俺を、心配して勉強してその指で治してくれたじゃないすか!」
2枚目のウーロンのジョッキを持つ前に、ボクチャンが二本の指をクイクイするジェスチャーを見て、再度口から液体吐き出しそうになった。
二人待って! あれする仲なの? あ、僕自身待って! 前立腺マッサージ知ってる事悟られちゃいけない、アナルに対して反応しちゃいけない。性癖バレする! 落ち着け。
荒れ狂う精神を抑え込み、出来る限りのキョトン顔を作り、存在を消すことに徹した。
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