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寝室のさらに奥のウォークインクローゼットにまで、義理の母が入ってくるはずがない。
それに、勝手に入ったとしても、「これ、もういらないわよね?」くらいの確認はする人だと思う。
だから……。
体の重さに立っていられず、私はよろけてベッドに座り込んだ。
夫が、捨てたんだ。
自分の好みではない、妻の服を。
問いただしてもきっと、とぼけられるか、もしくは「もっといい服を沢山買ってやってるんだからいいだろう」と開き直られる。
そう、確かに次々と宛がわれるから、古い服は捨てなければクローゼットから溢れてしまう。
それに、なくなった服は、買ってもらったものとは比べ物にならないくらいの安物で、量販店で買ったようなものばかりだった。
別に、夫を責め立てたくなるような、大事なものでもない。
だから、仕方がない。
そう、思うしかない。
私はベッドから立ち上がり、辛うじて残っていたシンプルな黒いカーディガンを羽織った。姿見で、全身を確認する――陰鬱な表情でこちらを見る、自分と目が合う。
「……大丈夫。まだ、頑張れる」
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