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――その髭も、「落ち着いて見えて、商品の説明に説得力が出る」というわかるようなわからないような理由で生やし続けている。
私も夫も29歳だ。無理に老けて見られることより、素直に商品の知識を増やすことのほうが大事じゃないだろうか。
そう言っても不機嫌になるだけだから言わない。
黙った私を満足そうに見て、
「この間、母さんが奈月に服買ってくれてたから、それをお披露目できてちょうどいいしね」
と言って眉を上げた。
義理の母のところには、百貨店の外商がお勧めの品物を抱えてやってくる。
そこで私に似合いそうな服を見繕っては、時折プレゼントしてくれるのだ。
この間買ってもらった服と言えば――上品でひらひらとした、パーティーにでも着ていきそうなワンピースだった。
あれを着て、気軽なイタリアンに。
「お披露目」したいのは、服なんかじゃない、「不遇の妻を手厚く扱う僕のママ」でしょう?
私は精一杯の微笑みで、頷いて見せた。
「私も早く着てみたかったの。ちょうどよかった」
夕方、急遽決まった外出のため、私は寝室で着替えをしていた。
寝室はウォークインクローゼットと繋がっていて、そこに私と夫の衣類がまとまっている。
義理の母から買い与えられたワンピースに袖を通す。
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