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私は多くはないコレクションの中から、ネックレスを一つ摘まみ上げた。
そっと、顔の前まで持ち上げると、その石はゆらゆらと揺れた。
ブルームーンストーン。母の形見の中で、私が一番好きな石。
淡い乳白色の石の中に、光の加減で柔らかな青い光が浮かび上がる。シラーと呼ばれるその青白い光を見ていると、息苦しくなるほどに魅入られ、頭の中のもやもやとしたものを吸い込んでくれる気がする。
まぁ、単に、私の「奈月」という名前を、この石にちなんでつけたから、というのが大きいのかも知れない。
お守り代わりにそのネックレスを首から下げ、私は立ち上がった。
タクシーで、目的の店に到着したのは6時10分だった。元々、予定時間の10分前には到着していたい私は、開始時間が過ぎていることにぞわぞわしてせき立てられるような気分になる。
洒落たイタリアン・レストランの店内に、夫が意気揚々といった足取りで入っていく。私はできるだけ控えめにその後ろに従った。
「あ、窪田夫妻、きたー」
「遅いじゃーん」
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