冬〜初冬〜

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冬〜初冬〜

11月になった。 俺の前の席は、まだ空席のまま。 今日は雪がちらついている。 1ヶ月先の気温らしい。 「来ないなぁ」 「…あぁ」 俺の視線に気付いたコーヒーが言う。 10月の文化祭から1ヶ月。 ティーは1度も姿を見せなかった。 翌朝のホームルームで、体調不良を理由に休む旨を担任から伝えられただけだ。 曲さんに抱えられたティーを思い出す。 ぐったりと全く動かなかった。 頭のアロマティカスは緑色の髪に隠れるように、数本残っているだけ。 「…何が『オレの体調はオレが1番分かるから』だよ」 「何か言った?」 「いや、何でもない」 呟いた俺の声が聞き取れなかったらしい。 コーヒーに聞き返された。 分かってねぇじゃん いや、分かってて無理した方があるか… 「アイツ、死んだんじゃね?」 「アイツ?」 菅野が話し出した。 みんなに聞こえるように、わざと大きめで喋っている。 「植物くんだよ。何だっけ?」 「エコ・プラント?」 「そうそう、そんなやつ。何か、凄ぇぐったりしてたじゃん」 笑っている。 菅野はクラスの1軍で、ティーが来たことにより、クラスの注目が逸れたのを不愉快に思っている。 ティーに直接の危害は加えなかったけど、言葉の端々には不満が滲んでいた。 「アレって『死んだ』になんの?『枯れた』じゃなくて?」 「そもそも、アレって人間?植物?」 「さぁ?」 「どうでも良くね?アイツ、何かうざかったし」 「あー、確かに」 「アロマ何だっけ?あれ、ミント臭かったんだよなー。俺、ミント嫌いじゃん?毎日うっとおしかったから居なくなって助かったわ」 「あー、それあるなー」 文化祭の喫茶店には参加しなかったくせに、文句だけは言いやがる 国にビビって直接手出し出来なかったくせに、小物は小物らしく、弁えて黙ってろよ 我慢出来ずに机を叩く。 気付いたコーヒーが止めにかかったけど、血が上った俺の方が早かった。 バン! 意外と大きく響いた音は、全員の注目を集めるには十分で。 一瞬にして静かになったクラス。 緊迫した空気が流れる。 俺は、さっき頭で思ったことをぶちまけてやろうと、大きく息を吸った。 ガラガラガラ 「おはよう〜」 のんびりした声と共に、前のドアが開いた。 突然の乱入で固まる空気に首を傾げると、わさりと同じように頭の葉っぱが揺れる。 キョトンとした矢吹程佳が立っていた。
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