冬〜初冬〜

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「ティー?!」 「結田くん、米田くん。久しぶり」 驚いたコーヒーの声に、ニコっと笑ってどうしたの?と寄ってくるティー。 アロマティカスはふさふさに繁り、倒れたのが嘘みたいに本人もろとも元気だ。 「大丈夫なのか?」 何でもないと首を振り、聞き返す。 家庭科室でぐったりとしていた様子は、全然大丈夫には見えなかった。 菅野にはムカついたけど、正直俺も死ぬんじゃないかと思ったくらいだ。 「うん、ごめん。切り過ぎても駄目だったみたい。根っこ生きてるからいけると思ったんだけど」 失敗した、と笑っている。 「失敗って…」 意識を失うほどだったのにそんな軽い言葉… 「学んだから次はもう大丈夫。曲さんもデータ取れたって喜んでたし」 その発言は保護者としてアウトだろ… 「………」 「ん?なぁに?」 「いや…」 俺が言い淀み、聞いてないふりで聞き耳を立てるクラスの奴らは、きっと引いてる。 一瞬、空気がざわついたから。 「なぁ、ティー」 「何?」 「ティーに人権はねぇの?」 サラッとコーヒーが言った。 一瞬空気が凍る。 データ取れたなんて、倒れた奴に言う言葉じゃ無いのは、みんな分かってる。 でも、相手は国だから迂闊に言えない、ってのも…分かる。 「さぁ?そもそも、オレが人間なのか植物なのかも決まってないから。どっち扱いされても正解?」 「嫌なら嫌って言って良いと思うぜ?」 「ありがと。でも、言ったところで変わらないよ?言うだけ無駄なとこあるから」 経験して分かってること。 ティーの口ぶりはそう言っていた。 それはつまり、人権が無いってことか? それとも、ティーがしてきたのはどうしても許されない拒否だったのか? コーヒーとティーの会話に俺は付いていけない。 「それに、曲さんは良い人だよ。面倒なオレの担当を志願してくれたんだから」 だから、倒れてもそんな発言許されるって? 良い人なのかもしれない。 俺は曲さんのことを外見しか知らない。 でも本当に良い人は、倒れるまで頑張った奴にそんな非情な言葉はかけない。 「なぁ、ティー」 「ん?」 「ティーにとって、曲さんはどんな存在?」 「え?何で?」 「…何となく」 「んー?父親みたいな兄貴みたいな……唯一の家族、かな」 「………そっか」 唯一… なら何も言えない。 曲さんは、ティーのことをただの研究対象としてしか見ていないのかもしれない。 でも、ティーにとって家族なら。 「どうしたの?久々だからかな?みんな変だねぇ」 首を傾げて笑うティーが、痛々しく見えた。
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