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「初めて彼女から家に誘われたんだ。映画を観よう、て」  嬉しそうに報告しながらも、同時に浮かぶ不安を顔に読む。  ――的外れな感想を言って幻滅されないか。  チラリと向けられる視線に、当たる占い師に当たってしまった同僚を思い出す。間違わない道だけを他人に訊いて進むと、一人では立ち止まってしまう。 「よく観察してください。これまでお伝えしてきたことと同じです。言葉だけでなく表情や仕草、行動から相手のして欲しいことを読み取って。どんなに気取って見せても、人は皆気付いて欲しくて堪らないんですから――映画はその為に作っているんです」    生真面目な教え子はこくりと頷く。 「大丈夫、とても素敵になられました」 「ありがとう、志帆さん。俺は……ようやく彼女の夢を叶えてあげられると思う」    その時私が彼を抱き締めたくなったのは、卒業を送り出す教師のような気持ちからだろうか。  見えない檻に自ら入っていくことを成長と呼び、その躊躇を掻き消すように拍手する。  もしかしたら刹那抱擁をしたかも知れ無い、そんな間の後彼は告げた。   「プロポーズをするよ」    それがされてもおかしくない摩天楼の天辺で、レストランの雑踏も雑音も掻き消えて   私の役目は終わった。    僅かでも喪失感を感じた自分に呆れてしまう。  クランクアップで恋人役を演じたヒーローとヒロインに本物の恋心が芽生える――そんな無謀。現実はその結末すら私が知ることはない。    私にできるのは、初めと変わらずはんなりと微笑むだけ。    「最後にお伝えすることがあります」   1502 「……最後って?」  フロアを途中で降り金文字が鋲打たれた扉の前で、男性は立ち止まる。  ホテルの個室で妙齢の女と二人きりになることの意味を流石に汲み取ったのだろう。が、ビジネスライクな余裕を崩さずに妖艶に微笑む。 「彼女様のよろこばせ方(、、、、、、)です」  刹那瞳が揺れる。デート終わりの“誘い方”に及ぶと濁すところから、察していた。拒まれたか踏み出せないか、上手くいっていないのだろう。可哀想。お姫様気質の女性を満足させるには、余裕を持ったそれなりの慣れが必要だ。砕かれた自信を癒してあげたかった。  彼は見つめ返して、そして首を振った。 「……喜ばない」  静かだけどきっぱりと。広い入れ口のガラスの水差しに、蛇口を捻っても水が出て来ないそんな寂寥と空虚さに潰されそうになった。 「そう、ですか。では」  ふわ、とその胸に縋った。印象より広い。 「――私じゃ、ダメですか?」      息を呑む音が聞こえる。  そう。本当は、私が欲しいだけ。  卑怯だと分かっているけど、もがいてもこの檻の向こう側には行けないから。 「困らせようとは思いません。ただ……苦しくなったら、私に吐き出して欲しい。あなたのものは壊さないから……ただ、役に立てたら……に必要とされたら、それで」  その腕がゆるりと私を抱き留めて、陽だまりのような暖かさに包まれた。そして慰めるように背をさする。分かっているよ、と呟いて。 「俺じゃ、ないだろ」  込み上げて込み上げて、嗚咽した。  欺瞞は見抜かれていたんだ  誰に似せようとしていたか
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